Story

SDL(Story Design Labo.)

クリエイターらしいアプローチと想いの具現化。

羽田空港や福岡空港など日本の空港建築を牽引する、梓設計。その中で厳選されたメンバーによって新設された「SDL(Story Design Labo.)」のブランディングをDynamite Brothers Syndicateは手がけました。組織設計事務所が立ち上げた一組織のブランディング。その際に、何を大切にし、そして何を実現したのか。オファーから提案までの全容を振り返ります。

Project Info.
  • CLIENT: SDL(Story Design Labo.)
  • CATEGORY: BRANDING DIGITAL LOGO GRAPHIC PACKAGE EDITORIAL MOVIE
  • YEAR: 2020
SPEAKER
  • 植村 徹PRODUCER / ACCOUNT PLANNER
  • 細野 隆博ART DIRECTOR

ブランディングへの思いに共感し、意気投合

Q. そもそも「SDL」とは、どんな組織ですか?

植村:2020年4月に発足した新しい組織で、クライアントの「夢」の実現だったり、必要な「価値」の発見と創造に特化したデザインシンキングを行うラボです。

細野:梓設計といえば空港設計が有名ですけど、空港に限らず、今では幅広い分野で活動しています。

Q. 設計事務所の一組織のブランディングというのは珍しいのでは?

植村:今までに、設計事務所と組んで店舗のサイン計画を立てたり、違う業態と組んでコミュニケーションをお手伝いしたりする経験はありましたけど、設計事務所自体のブランディングは初めてでしたね。
これはクリエイティブ業界全般にいえると思うんですけど、最近いろんな建築事務所が自社のPRを始める潮流がありますよね。自分の会社のブランディングをしていかなきゃいけないという流れです。
梓設計もそれぞれの事業部が事業部ごとのブランディングを少しずつ始めていました。空港を手がける部署にも、自分たちのブランディングをしていきたい思いが、その当時あったんです。

細野:創業70年以上の歴史ある会社ですけど、その印象をリニューアルしていきたいという要望があって、まずは梓設計の一番の強みが空港設計だから、空港の写真集を変えるところから始めたいというのがきっかけでした。SDLが発足する以前の話です。

Q. 空港の写真集のポイントを教えてください。

細野:それまでにも定期的に発行していたんですけど、カタログ的で魅力が伝わりにくいものでした。若い担当者に代わって、「自分たちのチームのものだから、もっと良くしてきたい」という声があったので、「デザインを今までとはガラッと変えて、かっこいい写真集にしましょう」という話をしましたね。

植村:担当者たちからも「せっかくなら写真も全部撮り直しましょう」という意見があったよね。

細野:そうなんです。でも最初に、設計した空港の写真を見たとき、そのままで十分に素晴らしいなと思ったんです。だから撮り直さずに、あえて竣工写真を使って、すでにあるもので梓設計の価値を高められるような1冊にしました。仕上がりはもちろんですけど、そういう提案も気に入ってくれましたね。その後、ロゴも作りたいという追加の依頼もありました。

植村:いい距離感で一緒に仕事ができたよね。

細野:やっぱり共通点があったのが大きかったと思います。一級建築士とアートディレクターという違いはありますけど。

Q. 共通点とは?

細野:梓設計は、じつは国立競技場にも関わっていて、すごく重要な部分を設計しているのに、名前があまり世に出ていなかったり知られていなかったりしていて、それがちょっと残念という話にすごく共感したんです。
僕も雑誌の特集ページはデザインしたけど、表紙を別のデザイン会社が手がけているケースがけっこうあって、その感覚に近いなと思って、そういう話もしました。そういうコミュニケーションもあって、写真集を作っている間にかなり意気投合していましたね。

デザインだけでなく、組織のあるべき姿を提案できた

Q 写真集やロゴの制作での品質と共感が、その後のSDLのブランディングにつながっていったわけですが、SDLを手がけるにあたってどんなことに注力しましたか?

植村:それまでの仕事で、提案しやすい空気感と環境ができていたから、あとは思いに耳を傾けて、眠っていた価値を掘り起こすことをしました。
思いというのは、建物を建てて終わりじゃなくて、その先のユーザーとの関係性とか、その先の建物の価値とか、体験価値のようなことも含めてブランディングしていく組織を作りたいという考えで、だからストーリーデザインラボという名前にしたとのことでした。

細野:思いはあったんですけど、実際に先方の皆さんと打ち合わせしていると、自分たちの会社を対外的にアピールすることに少し不慣れな雰囲気がありました。僕としては「いやいや、空港かっこいいじゃないですか!」と思っていたんですけど。たとえば、倉庫の写真がいいから写真集に使ったんですけど、「これを見開きに使うとは思わなかった!」と驚かれましたね。

植村:見栄えのいい華やかな建物を手がけてはいるけど、一方で、空港の運営のために必要ではあるけど目立たない建物も多いからね。そのせいか、組織設計事務所が対外的に自分たちの会社をアピールする文化がまだ根付いていなかったのかもしれないね。

細野:空港をめちゃくちゃたくさん設計しているのに、あんなに謙虚って…。僕なら、もっと調子に乗っちゃいますけど(笑)。

植村:建物を建てられる人たちの価値って、そもそもすごいよね。一つの建物の周辺に、ものすごい事業が眠っているといつも思う。

Q. SDLにもそうした価値があると?

植村:そうですね。空港を作れる人たちの価値は、視野を広げれば、街を作れるし、世の中を変える爆発力みたいなものがあるはずなんです。でも、建物を建てたらそれで終わってしまう、構造設計で終わってしまうところに、SDLを立ち上げた人たちはもどかしさを感じていたと思います。視野を広げたら、その建物の延長線上に本当はもっといろんなサービスが生まれたり、誰かに語りたくなる物語も生まれたりするはずで、それを作れるのがSDLの価値だと思いました。

Q. 冒頭で紹介したSDLのさまざまなデザインですが、どんな提案をしましたか?

細野:SDLはストーリーデザインラボの略ですけど、どんな組織であるべきかという提案を考えましたね。デザインの提案は当然で、 それ以上にストーリーを提案するというのはどういうことかを、こちらのプレゼンでわからせなきゃいけない、プレゼンから表れていなきゃいけないという話を社内でしました。提案の前、事前に会議室のドアを閉めておいて、開けたらすべてのツールが目に飛び込んでくるように机に並べて。参加する人も事前にわかっていたから、全員の名前を入れた名刺も作って、座る場所に置いておきました。

植村:ストーリーデザインラボらしい音楽もかけたよね(笑)。

細野:SDLのプレイリストを作ってかけました。「見てください、これがストーリーデザインなんです」というプレゼンをしましたね。

植村:プレゼンで音楽を流すって勇気がいるし、諸刃の剣だけど、それまでに関係性がもうできていたから外さない自信はあったよね。さっき言った、提案しやすい空気感と環境というのは、そういうことだと思います。

Q. デザイン面ではどんなことにこだわりましたか?

細野:梓設計に紐づいたストーリーを踏まえて提案しようと思っていました。はじめに考えたのはキーカラーです。インフラを下支えしているのに企業イメージが想起されにくい梓設計に対して、SDLは母体の枠を超えてイノベーションを生み出す新組織です。だから、梓設計のコーポレートカラーは空を連想する淡くて優しいブルーですが、それに対して、顧客のニーズに深掘りして提案していく姿勢が感じられるように、深海をイメージした色を設定しました。水深100m付近の「グランブルー」をイメージした、深みのある青です。梓設計の「誠実・信頼」という印象の淡いブルーと差別化を図りながら、SDLならではの深い探究心や攻めの姿勢を表現しています。


植村:プレゼンでも最初に色の話から始めて、リアクション良かったよね。

細野:名刺は裏が青なんですけど、「この紙の質感で青を塗ると、海っぽい雰囲気が出る」とかアイデアもいただきました。

植村:さっきの共感の話と同じで、「建てて終わる仕事とか、ただ言われた通りにやるだけの仕事と違って、SDLの仕事はもっと深くてきれいな、皆さんにしか表せない青なんです」みたいなアートディレクションの意図が、建築士のクリエイター心をつかんだのかもしれないね。

Q. SDLはロゴも特徴的ですね。

細野:ロゴは、Dを崩して遊び心を加えることで新部署のデザイン力を表していて、さらに部署名をあえて挿入することで柔軟性を表現しています。ラインのストロークやロゴ全体のウエイトを0.1mm単位で検証を重ねて、視認性とデザイン性を両立した繊細かつ力強いロゴにしました。
デザインは、企業が大切にしてきた信頼感・誠実さをイメージして、ニュートラルな書体をベースに、遊び心や柔軟性を加えたものにしています。直近の汎用性や実用性はもちろんですが、今後の成長まで視野に入れた綿密なガイドラインを設計しました。一級建築士の皆さんはこだわりが強くて目が肥えているので、そういう人たちに刺さる提案というプレッシャーはありましたね。

植村:品質をきちんと理解できる人たちだからプレッシャーはあったけど、デザインを提案したというか、SDLのあるべき姿をしっかり提案できたと思います。

課題を深く共有していると、いい提案が自然にできる

Q. このSDLのブランディングはどんな点がポイントだったのでしょうか?

植村:梓設計がどうにか変わろうとしている過渡期で、そこにちょうど僕らがジョインして気持ちが通じ合ったのが良かったと思います。まだ世の中に伝わってない企業の価値を素敵に見せたいという先方の本質的な欲求に、僕らが共感して、うまく応えられたんですよね。

細野:じつは自分たちもSDLのメンバーで、名刺も持っているんですよ。

植村:同じ作り手の会社として、クライアントワークはうまく作るけど、自分たちは素敵に見せられていない葛藤のような気分に共感できたからこそ、先方の課題が手に取るように共有できて、提案も自然にできたんだと思います。

細野:写真集やロゴができて、皆さんの熱が高いうちにブランディングに進めたのも良かったですよね。今、SDLの活動の場は大学寮から商業ビル、病院まで多岐にわたっています。その流れは梓設計全体にも波及して、対外的にアウトプットするツールとして、建築専門誌「新建築」の梓設計特集号も2021年に制作しました。
建築はスパンが長かったり、諸事情があったりしますけど、今後は大きなプロジェクトでわかりやすい結果と事例が出せたらいいと思いますね。

SPEAKER

植村 徹

PRODUCER / ACCOUNT PLANNER

細野 隆博

ART DIRECTOR

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