クリスマスと聞くと、「くるみ割り人形」を思い出す。
私の中で「クリスマス」と聞いて、真っ先に頭の中に浮かぶのは、大きなツリーにカラフルなドレス。
バレエ「くるみ割り人形」はクリスマスにちなみ、毎年世界中で上演されており、わたしも何度も観て、何度も踊った演目です。
クリスマスの夜、主人公のクララは、叔父のドロッセルマイヤーからくるみ割り人形をもらい、魔法にかかります。
素直で優しいクララの心がくるみ割り人形を救い、おとぎの国へと旅をして、少しだけ大人になる。
それは夢だったのか?現実だったのか?
人によって解釈も異なり、バレエ団によって演出も変わる、
観る人に委ねられる答えのない物語が、この長い間、多くの人を魅了し続けています。
このようにドイツのホフマンによる原作、踊り、舞台演出も当然すばらしいのですが、「くるみ割り人形」といえば、やはり主役はチャイコフスキーの音楽だと思います。
耳をすませて聴いてみると、その時代では先進的な楽器や技法、バレエ音楽ではめずらしいコーラス、おもちゃのような音色、銃声など、とにかくバリエーションがすごい。
聴いているだけで、観たかのような気持ちになってしまう不思議な力があります。
第一幕の序曲からパーティーシーンの音楽は、主旋律が軽やかでリズミカル。
スキップしたくようなスタッカートと伸びやかな音の重なりが、鼓動をことりのように弾ませ、人々をわくわくさせます。
そして、細やかに変化する音の流れは、次第に夢の世界へと誘ってくれるかのよう。やがて訪れる戦いのシーンでは、幾つもの音が重なり合い、細かなテンポで緊張感を生み出します。(バレエではビッグなネズミと兵隊が戦っているカオスなシーン。)
そこから雪のシーンへの移り変わりは、凪のような美しさをもたらし、音楽だけで雪の降る景色が目に浮かびます。
物語だとなんてことないシーンかもしれませんが、バレエでは、まさにここが見せどころ。
第二幕は、まるで夢そのもの。
さまざまな国をイメージさせる音楽につづき、「花のワルツ」、「金平糖の踊り」は、CM曲やBGMでも耳にする、印象的な旋律が連なります。
花のワルツは3拍子の代名詞。柔らかい音楽は幻想を見せているかのような印象で、マシュマロの上で踊っているような感覚に。
最後の「金平糖の踊り」には、チェレスタという楽器が使われています。
これは、チャイコフスキーがこの作品のために温めておいた楽器で、耳に不思議と残る音色が、唯一無二の世界観をつくり出しており、のちにこの楽器は「ハリー・ポッター」、「E.T.」、「ホーム・アローン」など、幻想的な物語やクリスマスが題材の映画で多用されるようになります。
この時代の音楽がフックとなり、いまの映画音楽にも生き続けている。なんてすばらしいんだ。

フルで聴くにはとても長く、そんな人は数少ないと思います。
それでも、ジブリやディズニー作品を観たことがない人がほとんどいないように、「くるみ割り人形」の旋律も、知らず知らずのうちに、私たちの日常に溶け込んでいます。
クラシックは、全体に大きな変化の少ない作品も多いなか、『くるみ割り人形』は、印象的なフレーズが多く、繰り返しも巧みに使われています。
おそらくこういうところがCM曲にも使用される理由ですかね。
そしていま、「冒頭の5秒でどう惹きつけるか」が問われる時代になり、短い動画や音楽などのコンテンツが重視されています。
“イントロなし”の楽曲やキャッチーなフレーズの繰り返しが主流になる中で、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』は、長くも短くも楽しめる。
じつは時代を先取りしていた作品だったのではないか、とつい思ってしまいます。
とにかく、大好き。すごい。

これまでバレエを見たことがない人は、ぜひ一度「くるみ割り人形」を観にいってほしいです。
クリスマスマーケットやイルミネーション、テーマパークなど楽しみ方はいろいろありますが、それとも違う、なんともいえない感情に出会えます。
わたしはあまりディズニーやユニバなど、いわゆる夢の国には昔からあまり惹かれないタイプですが、「くるみ割り人形」は踊らなくなった今でも、子供の頃のときめきを思い出し、あの世界の中で夢を見たいと思ってしまいます。
とはいえ、クリスマスというだけで、どんな過ごし方でも、胸が踊り、人の温もりや、おとなになった寂しさを感じさせる、不思議な日ですね。
クリスマスとは逸れてしまっているかもしれないと思い、一つ、クリスマスの日のエピソードを。
母は、私が小さい頃の大きいクマが欲しいいうサンタへの要望に応えるべく、人間サイズのクマを作ってくれたことがありました。クリスマス当日、母はおばあちゃん家に隠しておいたクマを背負い、イブの日の夜中、必死に自転車で移動。
真夜中に自転車の後ろで揺れ動くクマは相当怪しく、警察に呼び止められ、まんまと職質にあいました。。
わたしの“サンタの夢”は一度、警察によってなくなりかけましたが、母の奮闘のおかげで、クマは無事にわたしのもとへ。 何も知らないまま、夢はしっかり守られました。
今井萌々子
ASSISTANT PROJECT MANAGER
大学で映像表現を学び、実務ではグラフィックやWebデザインに携わる。 アパレル会社では、EC運営を通じてブランドディレクションや企画、撮影を担当。 トレンドを敏感にとらえ、運営と制作の両面で培った経験を活かした進行を目指している。