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42分間の宇宙遊泳
―プラネタリウムで浴びるピンク・フロイド「狂気」―

23View
2026.1.9


NASAによるアルテミスⅡの打ち上げが控えている2026年。
人類はもう一度、本気で月を目指そうとしているらしい。
宇宙好きとしては胸が躍る話だけど、
一般人の僕にとって月は、まだまだどこかのSF映画の中の存在だ。
そんな人類が約50年ぶりに月に近づく年に、
ピンク・フロイドの『The Dark Side of the Moon(邦題:狂気)』を
プラネタリウムで浴びるプログラムがあると知り、
アルテミスⅡよりひと足先に、月の裏側を漂ってきた--

HIPGNOSISが描いた“月の裏側”

『The Dark Side of the Moon』が
50年以上“名盤”として語り継がれてきた理由の一つが、
HIPGNOSISによるアルバムのアートワークだ。
1970年代のイギリスで活動したこのデザイン集団は、
音楽を説明するのではなく、
感覚を視覚化するのを得意としていた。
プリズムと光の分解。
そこには月も宇宙船も描かれていない。
僕のような汎用アートディレクターが、
つい使ってしまいそうな説明的モチーフは一切なく、
あるのは、ひとつの光が分解され、再び収束するという構造だけだ。
それなのに、このアートワークを見ると、
多くの人が“宇宙”や“月の裏側”を思い浮かべてしまう。
HIPGNOSISのデザインは、意味ではなく、構造で語る。

『Wish You Were Here』のジャケットも、
そこに描かれているのは曲やタイトルの説明的なものはなく、
握手した人物が燃えているというただ強烈な違和感。
ジャケットに文字を入れないことで有名なHIPGNOSISだけど、
ロゴのデザインも秀逸で、今見てもステッカーにしてmacに貼りたくなるデザインも多い。

月の裏側へ

正直、このプログラムの内容は、
体験してみないと何とも言えない。
予告のトレーラーを見た時点で、
ただならぬ気配は感じていたけれど、
実際はその想像を軽く超えてくる。
とにかく、ぶっ飛んだ「狂気」の42分間だ。
単純に、きれいな星空を眺めながら
ピンク・フロイドを聴く、みたいなものではない。
ピラミッドから宇宙空間へ、土星の輪っかを抜けて、
いつの間にか宇宙船の内部にいる。
行き先も説明もなく、ただ次々と空間に放り込まれていく。
もはや初めての宇宙旅行というより、ひたすら初めての宇宙酔いをしてた感覚。
「Speak to Me」で始まった感覚は、
気づけば、あのプリズムの中を通過しているようで、
「Eclipse」が終わった頃には、異次元から無事に帰還できた、そんな安堵感すらあった。
プリズムと光の分解という構造だけを残した
HIPGNOSISによるあのどシンプルなアートワークがあったからこそ、
“狂気”は42分間の体験として、
ここまで自由に空間化できたのだと思う。

月の裏側から戻って

ちなみに、冒頭で触れたNASAのアルテミス計画が成功すれば、
月の南極に前哨基地がつくられ、
いよいよ月で暮らす人達が誕生するかもしれない。
すごいな、人類。
それでも僕にとって月は、
これからも音楽や映画といったカルチャーを通じてしか触れられない、
「到達できないもの」の象徴として
まだまだ遠くに光り続けていく存在だ。
本物の月の裏側をこの目で見られる日は、
いったい何世代先になるのだろう。

細野隆博

ART DIRECTOR

紙媒体はもちろんWebディレクション・デザインも幅広く手がけ、積極的なコミュニケーションと丁寧に作り込んだデザインで信頼関係を築き、要望の先にある本質的な課題解決を目指す。新規スタジオ事業では動画制作のクリエイティブディレクションを担当。

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