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東京大手町「Otemachi One」の1階に佇むレストラン『CYCLE』(スィークル)。フランスのミシュラン3つ星レストラン「ミラズール」を率いる世界最高峰のシェフ、マウロ・コラグレコが手掛ける日本初のレストランとして、食通の間で注目を集めています。実際に『CYCLE』を訪れた当社代表野口は、『CYCLE』をイマーシブレストランだと形容する。『CYCLE』を絶賛する野口に連れられ、期待を胸にはじめて訪れた『CYCLE』での体験は、過ごしている時間とともに、その明確なコンセプトが深く染み込んでくるような時間でした。それはメニューはもちろん、空間やインテリアに至るまで、コンセプトが細部にまで行き渡ったプレゼンテーションのようでした。コンセプトは「循環」。『CYCLE』が訪れた人の心を掴むのは、その緻密なブランディングがもたらす比類なきイマーシブ体験にありました。
台風10号の中訪れた『CYCLE』(スィークル)。そのエントランスを前にした瞬間から、シェフの緻密に設計された世界観へと引き込まれます。
『CYCLE』のコンセプトである「循環」というテーマは、単なるメッセージとして終わることなく、レストランの隅々にまで浸透しています。内装のデザイン、インテリア、食材の選定、さらにはフロアスタッフの澱みない会話の内容に至るまで、すべてがこのテーマに沿って統一されています。たとえば、店内で圧倒的な存在感を放つ神代木(じんだいぼく)のオブジェ、同じく神代木を使用した全てのテーブルは、ひとつとして同じ形がありません。さらにトイレの扉の取手にも神代木を使うこだわり。メニューなどのペーパーアイテムも、竹や檜のリサイクル材を使用しています。徹底したこだわりをここでは語り切れませんが、それは食事が単なる食の場を超えて、自分が自然の循環の一部であることを味わえる場のように感じました。神代木や土壁など、店内装飾の話を食事の合間にソムリエから聞く時間もまた没入感を演出します。(神代木とは土の中で1,000年以上の時を経過した木を指す呼称)
このような一つひとつの発見や説得力が時間と共に積み重なり、気づけば味わったことのないイマーシブ体験へと誘われていました。
『CYCLE』(スィークル)での食事は、一つひとつの料理が、まるでシェフからのメッセージのように提供されます。食材の選び方、盛り付け、器、味わいのすべてが「循環」をテーマに表現されています。
コースは根・葉・花・果をテーマに、自然の美しさと循環を表現するタパスからはじまります。随所にレストラン裏の畑で栽培しているハーブなどを使用し、フレンチでありながら日本人の私の口にも馴染む料理が、タイミングよくサーブされます。そして、フロアスタッフによる一つひとつのメニューの説明が、料理に文脈を与え、ひとつの強いストーリーのように感じさせてくれます。フレンチと聞くと少し構えてしまう私でも最後まで存分に楽しむことができました。作家の千葉雅也氏は著書「センスの哲学」で意味から離れて物事をリズムで捉えることがセンスだと説いていた。『CYCLE』での時間は高級レストランでの振る舞いや、手の込んだ料理の意味を必要以上に考えさせることなく、自然が刻むリズムを感じながら、自然体で料理を楽しめる最高の時間でした。
お世辞にも食通は言えない私の語彙力では『CYCLE』の料理を語り尽くせないので、別の記事を見つけてご堪能いただければ幸いです。
『CYCLE』(スィークル)のブランディングは単なる視覚的なデザインやマーケティングの手法など表層的なものではなく、訪れる人々の感情にまで浸透していきます。レストラン全体が「CYCLE」というブランドを体現しており、その一貫性が深く心地いい印象を与えます。
コラグレコシェフが『CYCLE』で目指すのは、食事が持つ本質的な価値を再発見させることです。そのため、すべてのメニューには、食材やストーリー、さらにはそれが自然の循環とどのように結びついているかが反映されています。これにより、食事が単なる味覚の楽しみではなく、自然との関係性を再認識する機会となります。
このような体験は、シェフの想いが緻密にデザインされたブランディングによって初めて実現されるものです。訪れる人々は、『CYCLE』というブランドの世界観に完全に没頭し、その結果としてイマーシブな体験が生まれます。
少し話は逸れますが、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで2024年から「ラグジュアリー部門」が新設されました。いま世界のラグジュアリーマーケットの潮流が変わりつつあり、その背景には世界の年齢別人工分布が影響していると言われています。日本は高齢化していますが、世界は逆三角形で、ミレニアル世代以下の割合が増えています。そういった背景により2030年にはラグジュアリーマーケットの80%がミレニアル世代以下で締められるそうです。サステナビリティや多様性、地域特性を好む世代がマーケットの中心になります。それにより、欧州中心だったラグジュアリーブランドは世界中のカルチャーに深く入り込み、ローカル視点からブランドを再構築することが求められていると言われています。
『CYCLE』での体験は、まさにこれからのラグジュアリーを体現しているようでした。
レストラン全体がひとつのブランドストーリーを語り、それが訪れる人々にとって忘れられない体験となる。これこそが、『CYCLE』(スィークル)が提供するイマーシブ体験の真髄です。そして、この体験を支えるのが、細部にまでこだわった緻密なブランディングです。
マウロ・コラグレコシェフのフィロソフィーが詰まった『CYCLE』は、まさにブランディングを通してイマーシブ体験を提供してくれました。『CYCLE』をイマーシブレストランだと形容した当社代表野口の言葉を思い出し、上手いこと言うなと、改めて思います。上質で心地よく、想いは詰まっているけれど、決して押し付けではない。時間とともに、空間や料理、スタッフの方々を通して染み込んでくる没入感。日本初のこの特別な場所は、改めてブランディングの価値を気づかせてくれました。それもマウロ・コラグレコシェフの想いを体現する『CYCLE』ヘッドシェフ宮本悠平さんのお力があってこそだと思います。本当に豊かで楽しい時間でした。
スィークル/CYCLE by Mauro Colagreco 公式HP
植村 徹
PRODUCER/PLANNER
クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。