クリスマスをテーマに記事を書いてみてよ、と言われて街に繰り出した私はふと気付いた。この時期、毎年同じイルミネーションが街にはあふれていることに。毎年同じものを見ているはずなのに、なぜか毎年感動する。気づいた時には、今年も行くか、と足を運んでいる。お花見や海に毎年行くのとは、ちょっと違う感覚。その理由を知るべく、調べてみた。
イルミネーションが綺麗に見える理由。それは、冬は空気が澄んでいることにある。湿度が低く乾燥する一方で、空気中の不純物が減ることで光の反射が綺麗に見えるのだ。さらに、心理効果もある。暗い場所よりも明るい場所に安心感を抱くという人間の本能が働くことでポジティブなマインドになったり、一緒にイルミネーションを見る相手に心を開きたくなる「同調効果」も生まれるらしい。ほっとするのにドキドキするから何度見ても飽きないし、心を近づけたい相手を誘いたくなるのだ。毎年イルミネーションを見たくなる理由は、すぐにわかった。
表参道のイルミネーション(左)丸の内のイルミネーション(右)
しかし、なんとなく腑に落ちない。そこでわたしは、企業のクリスマスプロモーションを調べてみた。
この時期は、特にハイブランド各社の競争が激しい。つい最近までイルミネーションのツリーだけが目立っていた各社も、頭を巡らせている印象だ。今年のクリスマスプロモーションを例に挙げよう。Cartierは日本上陸50周年ということもあり、展示をはじめ、一本のバラを来場者に配るという大盤振る舞いっぷりで、3時間並ぶ行列を作った。Diorは仮面舞踏会というテーマで毛利庭園において没入体験を開催して話題に。アートや没入という昨今のトレンドを取り入れながらも、ハイブランドの気品やブランドの個性がある。魅力的なイベントがあふれているこのシーズンでも、わざわざ足を運びたくなる仕掛けがあって面白い。
Cartier「“カルティエ マジカルホリデー”ポップアップ」(左)
Dior「“THE BALL OF DREAMS「夢の舞踏会」”」(右)
そう、つまり企業のクリスマスプロモーションは時代に応じて変わってきたのに、イルミネーションだけが変わらないのだ。これは何か勿体無い気がする。ほうっておいても自然に人が集まるのなら、なにか企みたい。たとえば社会課題とかけ合わせてみるのはどうだろう。イルミネーションの前で募金をしてスイッチを押すと、30秒だけ表参道や丸の内の一本道に並ぶ明かりを好きな色に変えられるとか。ユーザーに没入する感動を提供しながら、多くの募金が期待できそうだ。または星を買うみたいに、イルミネーションを買う体験を購入してもらい、相対的貧困家庭に特製クリスマスディナープレートを配布するとか。スポンサーに働きかけて街を巻き込んではじまる“いい循環”が個人に巡っていく。そんな循環を作れたら。
少し話が逸れるが、サンタクロースのモデルになったのは、4世紀頃に実在したと言われる、聖ニコラウスという司教だった。貧しさのために娘を身売りさせなくてはならなかった一家に、彼が煙突から金貨を投げ入れた出来事がサンタが子供にプレゼントをあげる元ネタになったらしい。
クリスマスにも“ずっと変わらない当たり前”はあふれている。知らない家に金貨を投げ入れることはできないけれど、自分が享受したクリスマスの小さなしあわせを、小さなクリスマスの奇跡にして贈れたら。物価高や少子高齢化が深刻化する今、しあわせの循環という仕組みをさりげなく組み込んでいけたら。そう思考を巡らせているうちに、目に映るいつもと変わらないクリスマスも、実はいろんな可能性を秘めているのかもしれないと思った。
写真引用元:25ans https://www.25ans.jp/beauty/beauty-news/a63131440/dior-the-ball-of-dreams-241212/
るるぶ&more https://rurubu.jp/andmore/article/5008
戸谷 早織
COPYWRITER
新卒で銀行に入行後、求人広告会社にコピーライターとして入社。その後、広告制作会社を経て広告代理店に転職。職種の垣根を超えて広告キャンペーン全般に関わる。24年9月、ブランディング業務を深掘りしていくためにDBSにジョイン。