今月2日、ある絵本が書店に並びました。「クリスマスはいっしょの時間」です。
米国の漫画「ピーナッツ」の作者、チャールズ・M・シュルツ氏による1964年の絵本を、谷川俊太郎氏が翻訳。長年にわたりピーナッツ作品に関わってきた谷川俊太郎氏の最期の翻訳絵本となりました。
気になる内容ですが、「Christmas is(クリスマスは…)」で始まる短い文章と、クリスマスを楽しく過ごすスヌーピーたちのイラストが、すべてのページに描かれています。
新刊のためネタバレは避けますが、個人的には、チャーリー・ブラウンの「クリスマスはあたえる喜び、でももらうのもすてき」という一言がチャーミングで印象に残りました。
ちなみに、米国ではピーナッツといえばクリスマス、クリスマスといえばピーナッツと連想する人が多いそうです。
きっかけは、シュルツ氏も制作に参加した、ピーナッツ初のテレビスペシャルアニメ「チャーリー・ブラウンのクリスマス」(1965年12月9日 CBS)。高視聴率を上げ、批評家たちに絶賛され、テレビ界で最も栄誉あるエミー賞も受賞。何度も再放送され、クリスマスシーズンの定番となりました。
今回ご紹介するのは、同じくクリスマスをテーマにした2022年発売の絵本。「チャーリー・ブラウンのクリスマスの靴下」です。
表題作は、米国の人気雑誌「グッド・ハウスキーピング」1963年12月号の綴じ込み小冊子として発表されたもの。その後、コミックに収録されず、幻の作品とされていました。
物語は、チャーリー・ブラウンと友だちのライナスのこんな不穏な会話から始まります。(以下ネタバレあります)
「ぼく、今年のクリスマスには靴下つるさないんだ…こんな習慣、聖書に書いてないよ!」
チャーリー・ブラウンは、ほかの友だちにも話を聞いていきます。
「ちっとも心配してないの…どう考えても、サンタだって天然カールの女の子にはプレゼントたくさんあげたくなっちゃうでしょ?」という前向きな女の子がいれば、
「一番心配なのは、サンタクロースがぼくの家を見つけてくれるかってことだ…うちのまわり、どの家も見た目がそっくりなんだよ!」という後ろ向きな男の子も。
そんな中、妹のサリーから重大な事実を知らされます。
「この家にはどこにもクリスマスの靴下をぶら下げる場所がないって知ってた? 建築士を訴えてやる!」
テレビの上に靴下をかけてみるものの、「どうもこれでは解決になってない気がする…」と途方に暮れるチャーリー・ブラウン。
「なんとかして! なんか考えて! サンタクロースが来ちゃうのに、胃が痛いって言ってるだけじゃない!」
妹にそう非難された彼が目をつけたのは、自宅の玄関の郵便受け。そこに靴下をつるしました。
絵本には、靴下がたれ下がった郵便受けを、何も言わず眺めるスヌーピーのイラストが描かれています。
「お兄ちゃんってなんでも知ってるのね…メリークリスマス、チャーリー・ブラウン!」と妹に褒められ、ほのぼのとした雰囲気で物語は幕を閉じます。
そもそも、なぜクリスマスに靴下を用意するのでしょうか?その風習には、サンタクロースのモデル、聖ニコラウスが関係しています。
彼が貧しい家を助けるため煙突から投げ入れた金貨が、暖炉の靴下に入った、という逸話が元になっているのです。
ところが、現代では暖炉のある家はごくわずか。作中でチャーリー・ブラウンも次のように嘆いています。
「家に暖炉がないなんて!ああ、生まれる時代を間違った者の試練だ!」
ここで大切なのは、サンタクロースとコミュニケーションがとれれば、必ずしも暖炉である必要はないということ。
チャーリー・ブラウンもそこに気づいたからこそ、郵便受けを選んだのでしょう。(確実にサンタクロースの目に触れるであろう郵便受けを選んだのはファインプレー!)
私たちは、ついつい既存の手段ありきで考えがちですが、目的を達成するのなら、別の新たな手段でも構わないのです。従来の風習や常識に固執しない、子どもたちの柔軟な発想に、日々の仕事の意外なヒントが隠れているのかもしれませんね。
(なお、実際の絵本ではスヌーピーたちの可愛いイラストでストーリーが展開されます。このブログでは伝わらないほど魅力たっぷり、ギフトにもぴったりなので、気になる方はぜひ書店へ)
This is New Perspective
靴下をつるす場所は、暖炉じゃなくてもいい。手段は、常識とかけ離れていても構わない。
参考:「クリスマスはいっしょの時間」「チャーリー・ブラウンのクリスマスの靴下」(河出書房)、スヌーピー公式サイト SNOOPY.co.jp
石塚 勢二
COPYWRITER
広告制作会社で多くの企業の広告、プロモーションに携わった後、入社。コピーライティングに限らず大局的な視点に立ち、ブランドのコンセプト開発からコミュニケーション戦略の立案、動画・音声コンテンツの企画・シナリオ設計まで行う。