初めまして。DBSのメルマガに寄稿させていただくキッチン&インテリアジャーナリストの本間美紀と申します。実は私、とても不思議なメディアを運営しています。「リアルキッチン&インテリア」「リアルリビング&インテリア」というビジュアルムックです。発行元は小学館で、私自身が長く携わってきた雑誌編集の経験を活かしながらつくる本で、タイムレスで長く手元に置いておきたい(捨てたくなくなる)上質本です。毎年1回の発行で、2024年の12月に13冊目を発行しました。1冊目からエディトリアルデザインはDBS が担当しています。
その内容はキッチンとインテリアなのですが、インスタやそんじょそこらのノウハウ本では見つからない、個性的なキッチンや日本でそんな住まいを実現した人のキッチンを取材しています。またドイツやイタリアなど世界のトップブランドのキッチンや家具も、私が星の数ほどのブランドを見て厳選したものを紹介しています。
収納が便利、お手入れが楽、といった画一的な企画から、住まいのインテリア全体の中にキッチンを核にどう人生を落とし込んでいくかという、「人生をアゲル」コンテンツです。そんなキッチンライフを独自のルートで探り当て、インタビューを中心にページを構成していきます。写真も現場で私と住み手が話す言葉をフォトグラファーが聞きながら、撮ってゆく。まさにドキュメンタリー映画のような手法でつくっているのです。楽曲のようなタイトルと読者に響く文章、住む人の個性を捉えた写真の数々、DBSのエディトリアルデザインが三重奏のようにまとまって生まれるのが「リアルキッチン&インテリア」の世界観です。
一般に売れるキッチンの本というと、収納や何とかのルール、失敗しないとか、ソリューション型の書籍が書店の99%を占めています。「リアルキッチン&インテリア」は手が届かないかもしれない、でも絶対にこれはすごいぞ、素敵だよ!と私が信じたキッチンを掲載しています。そこで読者は覚醒するのです。「こういうのってありなんだ」と。
その後、リアルキッチンで夢をかなえた、という読者もどんどん現れて、彼、彼女たちは一様に「諦めなくてよかった」と口にします。さらに美しいビジュアルムックは、ミラノサローネなどの世界のトップデザインの見本市でも「マガジン・オブ・ザ・ワールド」に選出されたり、インテリア業界の多くのデザイナーやブランドから「この本のアートディレクターは誰?」と聞かれたりしました。非常にニッチな内容ですが、刺さる人にはどハマりするのです。
さて、本題に戻るのですが、エディトリアルデザイナーと仕事をしていると、机に座って籠ることが多い職種ゆえに世間が狭いのか、彼らは私のことをクライアントだと思ってしまうのです。ある意味そうでしょう。企業のデザインであればその担当者がOKを出すように忖度してしまう。でもそれは「作業」だと思っています。
今号からADに就任した井上宏樹さんとプランナーの植村徹さんとは、誌面のデザインがどうこうという話より先に、まだいるはずの潜在的な読者に的確にリアルキッチンを届けるのはどうしたらいいかを、話し合いました。二人には私のセミナーに来てもらったり、リアルキッチンをスポンサードしてくれている企業のイベントに参加してもらったり、「リアルキッチン」を読んでくれている人、参考にして仕事をしているたちの顔や空気感、つまり本が読まれている「現場」の臨場感を心と体に入れてもらいました。
読者が新しいリアルキッチンに期待するものはなんなのか? それと出会う機会は? デザインのお客さんは「彼、彼女たち」なのです。台割を決め、書体がどうこう、誌面のイメージは、、、というのはあくまでも、それからなのです。というかそこに深く肉薄しなければデザインできなくないですか?
加えてありがたいことに、「リアルキッチン&インテリア」のまわりには素晴らしいスポンサー企業がいて、さらに多様なビジネスやイベント、スピンオフの可能性が広がっています。アートディレクターとは単に誌面デザインの作業や統括をする人ではなく、そこまで見据えて、メディアデザインを考えるクリエイターであるべきだと思います。マネージャーじゃないのです。クリエイターです。
インテリアや家具のデザイナーと会って話す機会が多いのですが、彼らは図面を引いて、インテリアや家具デザインする作業は当然のことながら、自分のデザインがお客さんの人生の質を上げているか、依頼企業の利益につながっているか、その先のゴールまで考えているのが当たり前です。発表イベントには顔を出し、なんだったらトークまでして、そのコンセプトをデザイナーの視点から伝えようとしています。物の形をつくるのは作業であり、それが伝わり、人の手にわたり、その人生で「実効果」を上げるまでを、全分野のデザイナー、アートディレクターは見ていくべきだと思っています。こぎれいなグラフィックを作るだけならアプリでもできる場合がありますから、
そこで私たち3人は「デザインのお客様」は誰なのかを、最初に探り、共有することを最初に行ったのです。現場に出て感じること、知ること。それがなければデザインは起こせないとさえ思います。エディトリアルデザインとは写真と文字を並べるだけではなく、平面的な作業に終りません。実務作業面以外の部分で、3人で色々な話ができたことが、今回とてもよかったし、誘ったイベントも楽しんでくれた。今後もそんな機会を増やしていきたいと思いますし、DBSってそういうデザインスタジオだと思っています。
リアルキッチン公式HP https://realkitchen-interior.com/topics/41399
小学館オンラインサイト https://www.shogakukan.co.jp/books/09802201
本間 美紀
ジャーナリスト
早稲田大学文学部でクリエイティブライティングを学んだ後、インテリアの老舗雑誌「室内」編集部に入社。8年勤務ののち、独立。インテリア、キッチン、住宅、デザイン、ライフスタイルなどの執筆、編集、セミナー活動、リサーチワークを行う。海外取材も多数。2012年から小学館とターゲッテドメディア「リアルキッチン&インテリア」「リアルリビング&インテリア」などを立ち上げる。ほかに「人生を変えるインテリアキッチン」(小学館)「デザインキッチンの新しい選び方」(学芸出版社)などの著書あり。