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【 リアルキッチン&インテリア特集 Vol.02 】読者との適度な距離感を大切に 〜REAL KITCEHN & INTERIOR制作ストーリー〜

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2025.1.23

創刊から12年経つ「リアルキッチン&インテリア」、最新号のシーズン13よりADとして立った井上です。今回の制作において、体感したこと、そして制作において大切にしたことなどを綴って行きたいと思います。
まず本誌制作前に、これまでの私のエディトリアルデザイン経験の中でも稀となる体験をしました。それは、著者本間さんのトークイベントに参加したこと、つまりは、「リアルキッチン&インテリア」読者と同じ場に立ちその空気を感じたことでした。イベントに参加するのはカスタマーだけでなく、建築家やデザイナーなどプロの方々まで。この本の先には、双方の目線がありそれに応える必要を感じました。そこで、デザインを進める上で特に大切にしたのは、読者との適度な距離感を保つこと。ユーザー向けに寄り添い過ぎず、プロ向けに高尚に振り切りすぎないもの、その両方のバランスが必要であると感じました。これからお話するのは、その読者との距離感を保つ上で大切にした3つのポイントです。

 

リズムを作る

著者の本間さんが本誌を作成する上で掲げられていることに「憧れ」と「共感」があります。先述の「読者との適度な距離感」は、その考えにも共通するものとも言えます。「リアルキッチン&インテリア」制作において、はじめに1冊の流れを大切にしました。特集は、ミラノで開かれる世界最大のキッチン見本市 エウロクチーナの出展ブランドストーリー、インテリアキッチン事例取材ページ、最新ビルトイン家電の3本。「憧れ」と「共感」の考えを元にした時、ひとつの流れ(=リズム)を想像しました。世界規模の話から、身近に感じる話へ。想像からリアリティーへ、そんなリズムを思い浮かべました。エウロクチーナ特集から、事例取材ページ、最後に最新ビルトイン家電という未来の話で締める。情報のスケール感を意識しながら、まずは、本1冊の大きなリズム作りからデザインを始めました。

第1特集のエウロクチーナページは、各ブランドの世界観や個性的なデザインをビジュアルを通して伝えるため、白を縁取って写真を強調、直線的な構図で潔くシンプルなデザインを意識。「憧れ」を醸成します。第2特集のインテリアキッチン事例ページは第1特集に反して、動きと余白を活かしたデザインを意識しました。このデザインの違いで誌面全体にリズムを作りました。
ここで特に大切にしたのは余白を作ることです。余白とは、読者に思考を巡らせるための「隙」を与えるものと考えています。読者がページをめくるごとに自分の生活に取り入れた時のイメージを膨らませるための間。共感を抱いてもらうための余裕を与える、そんな意図をもって余白を作りました。「憧れ」と「共感」の「共感」の部分を意識したデザインです。

〈第1特集〉

〈第2特集〉

 

さらに写真のセレクトに関しては、リビングから見えるキッチンまたはその逆のキッチンから見える景色など、その空間にいるかのような没入感のあるアングルや構図を意識したセレクトで、写真の並びにリズムを持たせることで、誌面におけるメッセージをより明確に伝わることを意識しました。

 

トレンドカラーを意識する

ファッションにトレンドカラーがあるように、インテリアにもその年のトレンドカラーがあります。最新のインテリアキッチン事情を伝える冊子として、トレンドを意識した色のセレクトは特に心がけました。
2025 年を特徴付けるトレンドカラーとして、温かみのあるニュートラルな色や、寒色系よりも暖色系の柔らかく包み込むような色合いが幸福感を高め、キッチンをより陽気な空間に変えると言われています。
ただ1冊の中で色を使う箇所は可能な限り抑え、扉やコラムなど要所要所でベージュや淡いピンクなどを使用するに留めました。色は脇役、写真が主役な1冊になることを意識しました。

表紙ロゴのカラーは、当初、淡いピンクで上品な柔らかいイメージや、ベージュ寄りのゴールドなどでラグジュアリー感の強いものなどを検討した末、最終的に温かみの中にも強さのある赤(フランス伝統色:Rouge Rubis)を使用して、書店での存在感なども考慮した色を採用しました。

 

余談として、インテリアのトレンド指針に、カラーと別にマテリアル(素材)も重要な要素のひとつです。石やガラスや木など。
「リアルキッチン&インテリア」の今後のデザインとして、例えば紙の質感を特集ごとに変えて素材感を感じさせるなど、マテリアルへのこだわりを表現した1冊を作れたらと思っています。

 

フォントに思いをのせる

誌面の印象やトンマナを大きく左右するフォント。創刊時からこれまで12年にわたり表紙ロゴに使用されてきた「Didot」というフォント(「VOGUE誌」ロゴのベースとしても使用されているものです)。今回その表紙ロゴのリニューアルを図りました。そもそもこのDidotは、この本が持つ上質さやラグジュアリーなイメージをよく体現しています。正直、変える必然性はないのでは、とも思いましたが、先述の「憧れ」と「共感」で言うところの「憧れ」を表現していても、「共感」には少し遠い印象、読者との距離があるように感じておりました。その「共感」部分を表紙で感じさせたい、その思いの元、ロゴのリニューアルを計りました。洗練さを感じさせつつも、柔らかさや温度感を意識してフォントを選定し、「憧れ」と「共感」両方を感じさせる表紙ロゴを作成しました。遠い憧れだけの高級感で終わるのではなく、共感を生ませる、今の時代にマッチしたラグジュアリーな1冊を目指しました。

 

このように、リズム、色、フォントという「視覚的な要素」と、共感・憧れなどの「心理的な要素」を組み合わせ、一冊を通して一貫したメッセージを伝えることを特に大切にしました。今後も、デザインにおける「リズム」を意識して視覚的な流れを作り、色やフォントを大事にすることで読者に感情的な共感を促し、ただの情報提供にとどまらず、体験を提供し適度な距離感を保つことを大切にし、「リアルキッチン&インテリア」の制作に取り組んでいきたいと思っています。

 
 

リアルキッチン公式HP https://realkitchen-interior.com/topics/41399

小学館オンラインサイト https://www.shogakukan.co.jp/books/09802201

 


井上宏樹

ART DIRECTOR

ファッション誌や百貨店カタログ、ビジネス誌などエディトリアルデザインの知見が豊富。ライフスタイル文脈でどのようなコミュニケーションデザインが役割を果たせるかを発想の軸に置き、新規事業からインナーブランディングまで活動の幅は多岐にわたる。

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