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AIがなくてもできるパーソナライズ。ヒントは50年以上前に発表されたあの国民的漫画にありました!

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2022.12.10

パーソナライズしたサービスで顧客満足度を上げたい。だけどAIを使えない。そんな人のため、AIを使わずにできるパーソナライズの方法をご紹介します。

365日パーソナライズされる時代

NTTドコモの調査によると、日本人のスマホ所有率は9割以上。60代も9割以上、70代でも7割以上が所有していることがわかりました。今や誰もが毎日手軽に知りたい情報を入手でき、ストレスなく自分に合ったサービスを受けられます。

一見当たり前の光景に思えますが、それは企業があなたの個人情報と引き換えにパーソナライズしている結果です。事実、Amazonは各ユーザーの興味を予測・提示して10億ドル単位の売上を実現。Netflixは売上の60%をユーザーごとの映画の好みを予測することから上げているそうです。
電子フロンティア財団のクリス・パーマーは「無償サービスには、個人情報という対価を払っているのです。GoogleもFacebookもそれを上手にお金に変えています」と話します。Yahooヴァイスプレジデントのタパン・バットも次のように語ります。「WEBの未来はパーソナライゼーションにある。今後は、WEBを上手にパーソナライズし、ユーザーに合わせられるかどうがが勝負だ」。

なぜパーソナライズ=AI なのか?

国内企業もパーソナライズしたサービスを次々と展開中ですが、根幹を支えるのがAI(人工知能)です。ところで、なぜパーソナライズといえばAIなのでしょうか。答えはパーソナライズとカスタマイズの違いからわかります。

パーソナライズ・・・サービス提供側が、顧客一人ひとりのニーズに応えるため、最適化したものを提供すること。

カスタマイズ・・・・顧客自身が、欲しい情報や好みに合わせて、使いやすいように設定したりアレンジを加えたりすること。

一部のパーソナライズサービスは、「顧客がカスタマイズできる状態で提供すること」をパーソナライズと呼んでいますが、正しくは顧客一人ひとりに合わせて最適化して提供すること。それを実行するには膨大な個人情報がベースになり、人間に比べ圧倒的な情報処理能力を誇るAIが役立つのです

まだ誰もが気軽にAIを使えるわけじゃない

AIの活用は、音声認識、画像認識、さらに工場自動化や創薬支援など幅広い分野で加速し、国内AI市場は2桁成長が続いています。
しかし、実際にAIを導入している企業はわずか20%ほど。専門知識の不足や社内体制、価格面などが理由に挙げられますが、AIを導入できないからといってパーソナライズをあきらめる必要はありません。パーソナライズする方法は、AIだけではないと私は考えています。そのヒントが、1970年に連載を開始したある漫画にありました。「ドラえもん」です。

ドラえもん第1話はパーソナライズだった!

おなじみ「ドラえもん」に、6種類の第1話があることをご存じですか?「ドラえもん」は、小学館の「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」「小学四年生」という雑誌6誌の1970年1月号で連載スタート。そのため、なんと各雑誌の対象読者別に描き分けられた6種類の第1話が存在するのです(1973年からは小学五年生、小学六年生でも連載)。

Case 1 「よいこ」第1話 ドラえもんあげる

「よいこ」は「幼稚園」より下の未就学児を対象にした幼児誌。大きなコマで、理解しやすい内容が短いページで描かれています。当然すべてひらがな表記です。
●ページ数:4P
●コマの数:11コマ(1P当たりの平均コマ数2~3)
●登場人物の数:5人(ドラえもん、セワシ、のび太、おかあさん、おとうさん
●フキダシの数:17

Case 2 「幼稚園」第1話 ドラえもんがやってきた

幼稚園に通い始めると友だちが増えます。そんな園児の読者のため、友だち(スネ夫とジャイアン)を登場させています。タイムマシンなどSF的な設定は省略していますが、ストーリーの最後にひみつ道具らしいアイテムも登場します。
●ページ数:4P
●コマの数:12コマ(1P当たりの平均コマ数3)
●登場人物の数:5人(ドラえもん、セワシ、のび太、スネ夫、ジャイアン)
●フキダシの数:16

Case 3 「小学一年生」第1話 ドラえもん登場!

幼児誌よりコマ割りが細かくなり、ページ数も増えます。進学して初めて漫画を読む小学生にも配慮し、コマに番号をふっているのが特徴的です。内容はシンプルで、やはりSF的設定の説明はほぼありませんが、「未来」については少しだけ触れながら「みらいってなあに」「みらいってむかしのはんたい。ぼくらはそこからきたんだ」と、一年生には難しい言葉を丁寧に説明。「一年生にもなって、おつかいもできないんじゃ」というセリフで、読者の興味もひいています。しずちゃんとジャイ子のような女の子も、この小学一年生から登場します。
●ページ数:7P(扉ページ除く)
●コマの数:46コマ(1P当たりの平均コマ数6~7)
●登場人物の数:10人(おかあさん、のび太、おとうさん、ドラえもん、セワシ、しずちゃん、おじさん夫婦、ジャイ子のような女の子とその友だち)
●フキダシの数:79

Case 4「小学二年生」第1話 未来から来たドラえもん
しずちゃん宅に友だちが集まってかくし芸大会を開くストーリーで、幼児誌では描かれない小学生の日常が描かれています。未来についても「111年あとのせかいからさ」と具体的に説明され、「タイムマシン」という言葉も登場します。
●ページ数:10P(扉ページ除く)
●コマの数:72コマ(1P当たりの平均コマ数7~8)
●登場人物の数:13人(のび太、おかあさん、ドラえもん、セワシ、しずちゃん、スネ夫、ジャイアン、友だち5人、おとうさん)
●フキダシの数:114

Case 5 「小学三年生」第1話 机からとび出したドラえもん
ドラえもんとセワシが現代へやってきた理由が明かされ、タイムテレビで未来ののび太が何度も映し出されます。そのぶん、登場人物も増加。日々の生活の改善が遠い未来の子孫にも影響を与えるというSF色が強く、少し難しい話が小学校中学年向けに展開されます。また、のび太がお年玉を自分で管理するシーンも描かれています。
●ページ数:13P(扉ページ除く)
●コマの数: 102コマ(1P当たりの平均コマ数7~8)
●登場人物の数:14人(おかあさん、おとうさん、のび太、セワシ、ドラえもん、9年後ののび太、しずちゃん、スネ夫、ジャイアン、ジャイ子のような女の子、友だち、15年後ののび太、20年後ののび太、21年後ののび太)
●フキダシの数:154

Case 6 「小学四年生」第1話 未来の国からはるばると

将来結婚するのはジャイ子かしずちゃんかという、のび太の命運を握る問題にスポットが当てられています。しずちゃんに好意を寄せるのび太は、異性への関心が芽生える小学校中学年らしく描かれています。登場人物を絞り込むことでキャラクターが深掘りされ、低学年に比べてジャイアンの凶暴性も徐々に露わに。「首つり」「火あぶり」「入試落第」「会社つぶれ借金取りおしかけ」などネガティブワードも頻出します。ちなみに、多くの人が読んだであろう、てんとう虫コミックス第1巻には、この「小学四年生」版を加筆・修正したものが収録されています。
●ページ数:14P(扉ページ除く)
●コマの数: 106コマ(1P当たりの平均コマ数7~8)
●登場人物の数:8人(のび太、ドラえもん、セワシ、しずちゃん、ジャイアン、ジャイ子、おかあさん、おとうさん)
●フキダシの数:146

以上のように、作者の藤子・F・不二雄氏は、ストーリーやコマの大きさなどをわざわざ描き分けしていました。つまり、読者の年齢に合わせてパーソナライズしていたのです。

パーソナライズとは人から人への心配り


藤子・F・不二雄氏は、仕事中に落語をよく聞いていました(ちなみに藤子不二雄A氏も)。文楽、志ん生、圓楽、談志などを好んで聞き、寄席にも熱心に足を運んでいたそうです。

落語にもパーソナライズの要素があります。たとえば、本編に入る前の導入部分であるマクラ。落語家によって内容は異なりますが、その日の客の様子をうかがい、話題のニュースを臨機応変に盛り込んだり、先輩落語家をいじったりする場合もあります。寄席では10日間同じ演目で高座に上がりますが、日によってネタを変えたり、オチを変えたり、アドリブを加えたりと工夫をこらし、その時々に合った笑いを提供しています。たった一人を対象にしたものではありませんが、これもある意味パーソナライズといえるでのはないでしょうか。

落語に限らず、日本の伝統文化はパーソナライズの文化といえます。たとえば旅館。女将は、何気ない会話から客の好みを引き出したり、長年の経験から判断したりして一人ひとり異なるおもてなしを提供しています。
茶道では、客を迎える際に掛け軸を選びます。季節感を演出する意味がありますが、そこには客に対する亭主のメッセージが込められ、茶会のテーマも表しているといいます。年賀状やポチ袋に一言添える心配りも、一種のパーソナライズといえるかもしれません。

ここで注意しておきたいのは、決してアナログ回帰を訴えているわけではなく、「心配りが必要だ」という精神論を繰り広げたいわけでもありません。あくまでもパーソナライズはAI一択ではなく、精度の高さや対象の広さに課題はあれど、人間にもパーソナライズできる可能性があることをお伝えしました。

人によるパーソナライズに必要なことは?

企業が商品開発する際、ペルソナを設定します。ペルソナとは架空の人格であり、名前・年齢・性別・趣味・住所など人物像を作り、ユーザビリティーに優れた商品の開発に結びつけます。
その設定がもちろん効果的な場面もありますが、パーソナライズにはあまりおすすめできません。なぜなら、ペルソナ=架空の人格だからです。対象が架空である以上、提供するサービスも架空の域を出ません。それよりも〝実在の人物とのつながり〟を持ち、〝実体として想像する〟ことが重要だと考えています。

その大切さが伝わるエピーソードをご紹介します。1970年代前半、青年コミック誌の連載を何本も抱えながらも意欲減退していた藤子不二雄の二人のもとに、ある小学生からファンレターが届きました。

〈 ぼくはオバQから先生のファンです。オバQ、パーマン、21エモン、モジャ公などみんなすきです。今はドラえもんのファンです。ぼくの弟のとっている小学二年生をとりあげて、ぼくがさきにドラえもんをみるのでいつもケンカになります。
ぼくは大きくなったら先生のようなマンガ家になろうとおもっています。
でも先生はこのごろなぜ少年雑誌にマンガをかかないのですか。ぼくはさびしいです。
これからは少年雑誌にまたたくさんおもしろいマンガをかいてください 〉
僕たちは「ガーン!」というショックを受けた。そういえば、ここ何年間、本腰をいれて少年漫画を描いていない。
〝青年コミック〟という寄り道にさまよっている間に、本筋である〝少年漫画〟を忘れていたのだ。
翻然と目ざめた僕たちは、過去を清算し、少年漫画の世界へもどった。
こうして、再び僕たちのもとへ毎日、少年たちの手紙が多くとどくようになった。それらの手紙をひらくたびに、僕たちは少年たちとの連帯を感じるのだ。
〝青年コミック〟を描いている間にはこれがなかった。いくら描いても、その答えが返ってこないことほどむなしいことはない。
だが少年漫画の読者たちは、作者が意欲をこめて描いた作品には必ずたしかな答えを返してくれるのだ。
僕たちはこの答えが返ってこなくなるまでは、少年漫画を描きつづけようと、今ははっきり思った。
あのファンレターをくれた少年に心からお礼をいいたい。

「二人で少年漫画ばかり描いてきた」(藤子不二雄/文藝春秋)より一部抜粋

パーソナライズ VS フィルターバブルのジレンマを解消

パーソナライズを語るうえで避けて通れないのが、フィルターバブルです。フィルターバブルとは、自分が興味のある情報にだけ接して、それ以外の情報に触れなくなる状態のこと。フィルターバブルの中にいると同じ意見ばかり目にするようになり、特定の意見や思想が増幅され影響力をもつ現象「エコーチェンバー効果」を生み出す危険もあります。

私たちは、パーソナライズとフィルターバブルのシーソーの上で生きているといえます。パーソナライズを優先すれば、情報収集・選択の手間や時間を大幅に短縮できますが、反面フィルターバブルに陥るリスクがあります。一方、シークレットモードを使うなどしてフィルターバブルを回避することも可能ですが、すでにパーソナライズされる快適さを知ってしまった私たちにとって、それはずいぶん不便に感じるでしょう。
両者はトレードオフであり、バランスが重要ですが、先述のように〝実在の人物とのつながり〟を持ち、〝実体として想像する〟ことで、ジレンマは多少なりとも解消されると考えられます。

たとえば、「これまでのようにパーソナライズされたいけど、フィルターバブルが嫌だから、たまには別の刺激も欲しいだろう」あるいは「フィルターバブルは承知のうえで、とにかくパーソナライズされ続けたいだろう」など、つながりをもとに相手を想像することで真意が見えてきます。最近オンラインサロンがオフ会を開いたり、企業が新商品開発のアイデアを得る場としてファンミーティングを開催したりするのも、いかにパーソナライズできるかを考えた結果ともいえます。コミュニケーションをひと工夫して、AIがなくてもできる〝ヒューマン・パーソナライズ〟を試してみてはいかがでしょうか。

 

This is New Perspective
AIがなくても、コミュニケーション次第で人間にもパーソナライズは可能。

Reference:
「DX 白書 2021」 (独立行政法人情報処理推進機構)、「会社四季報業界地図2021」(東洋経済新報社)、「閉じこもるインターネット グーグル・パーソナライズ・民主主義」(イーライ・パリサー/早川書房)、「Pen+ 大人のための藤子・F・不二雄」(CCCメディアハウス)、「POPEYE ジャズと落語」(マガジンハウス) *漫画の画像は小学館WEBサイト「ドラえもん0巻」「ドラえもん1巻」ためし読みより

石塚 勢二

COPYWRITER

広告制作会社で多くの企業の広告、プロモーションに携わった後、入社。コピーライティングに限らず大局的な視点に立ち、ブランドのコンセプト開発からコミュニケーション戦略の立案、動画・音声コンテンツの企画・シナリオ設計まで行う。

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