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グローバル化を進める日本企業に必要な視点とは?

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2023.7.6

少子高齢化や人口減少の影響から国内市場は縮小の一途をたどるといわれ、日本企業は海外に販路を求めはじめています。今後グローバル化を加速させる際にはどんな視点が必要なのでしょうか。企業の海外展開に貢献する「タカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマース」(以下TTIC)のマネージングダイレクター兼CEO、川口貴明さんにお話をうかがいました。

 

日本のものづくりのように、付加価値の高いものは値崩れしにくい

Q.  老舗百貨店の髙島屋と、デジタルマーケティングのトランスコスモス。その合弁会社としてTTICが誕生した経緯を教えてください。

川口TTICの設立は2015年ですが、その2年前にはクールジャパン機構が官民ファンドとして設立され、髙島屋も旅行会社や航空会社と並んで株主として参画していました。この時期は、インバウンド需要が増加し、日本製品が海外で人気を集めていた時期でもありました。

そういった背景もあり、日本のブランドを海外展開し、各国への商品供給に貢献するために、アジア・アセアン地域のビジネスの中心地であるシンガポールにTTICを設立することになりました。

タカシマヤグループが培ってきた信頼、商品調達力、アジア・アセアンでの百貨店とショッピングセンターの店舗展開網と、トランスコスモスグループのグローバルEC販売、デジタルマーケティングのノウハウ、リソースを結集しました。

 

Q.  海外では、日本のどんなブランドが受け入れられるのでしょうか?

川口設立当初は、海外での需要において食品が主力になると考えていましたが、実際は予想と異なる結果が明らかになりました。当時、タイでは日本のデニムが大きなブームで、地元のデベロッパーやバイヤーが児島というデニムの産地がある岡山県を訪れるツアーが開催されていました。彼らは数軒のメーカーを訪れる予定でしたが、意外な展開として、予定外のブランドに興味を持ち、「今日なら訪問できますか?」「このブランドが気に入りましたが、契約できますか?」などと話が進みました。そのような急展開に困惑しながらも、私たちは彼らに協力し、製造~受発注の管理や出店支援を行いました。この経験から、食品以外のアイテムに対する現地の需要の大きさに気づくことができましたね。

 

Q.  具体的に、日本のブランドのどんなところが魅力なのでしょうか?

川口日本のブランドは、たとえばデニムの場合、糸の紡績から生地の織布、縫製、加工までの生産工程が細分化され、産地内での一貫生産が可能です。これは世界に類を見ない業界特性と強みです。また、眼鏡で有名な鯖江市も同様です。

これらは一例ですが、日本のものづくりの仕組みや技術開発力には世界的に大きな価値があります。付加価値の高い製品ほど、長期にわたって価値の低下が少ないといえます。

はじめは高価に感じられるかもしれませんが、現地では急速にGDPが上昇し、一定数の富裕層も存在しています。そのため、サプライチェーンの無駄な関税を省き、輸入コストと内外価格差を抑えることができれば、2年後にはより多くの人々が手の届く価格で商品を購入できるようになります。もちろん、「メイド・イン・ジャパン」がベストですが、品質への絶対的な信頼感があるため、「メイド・バイ・ジャパン」でも現地で受け入れられるでしょうね。

 

海外での規模拡大は、短期的な戦略に長けた現地パートナーを味方に

Q.  では、日本企業が海外進出する際にどんなことが重要でしょうか?

川口ローカライズするためにも、現地パートナーとの連携が不可欠です。オーナー企業や大手企業の場合、自社内での一括運営を試みることがありますが、最終的に規模の拡大を追求するためには、現地の需要に合わせたサプライチェーンを構築する必要があります。そのため、現地の大手パートナーとの戦略的な提携が成功への鍵となります。

たとえば、ある日本のブランドが現地で認知されるようになったとします。しかし、それと同時にコピー品も市場に出回り始めることも考えられます。ブランディングの観点からも、これらの模倣品を排除する必要があります。現地パートナーは現地における店舗展開戦略に精通し、急速に認知度を高め、店舗数を増やし、一等地の出店場所を獲得できます。プライムロケーションのショッピングモールで、短期間で認知度と売上実績を向上させることで、他のショッピングモールからも有利な条件の出店オファーが舞い込むようになります。ブランドを確立するためには、迅速な行動と現地ブランディングへの投資が重要です。スピード感がすべてですね

 

Q.  海外での出店は、そうした戦略がスタンダードなのでしょうか?

川口こだわりのあるブランドの中には、「規模拡大を追求するのではなく、マーケティングをしっかり行いながら徐々に成長していきたい」といった声もあります。彼らのように多店舗を出店する方針がなく、高額な商品であっても現地での十分な売上を見込める自信がある場合は、異なるアプローチを模索することがあります。

注目すべきは、繁華街の路面や今後出店オファーが集中する見込みのある場所です。たとえば、タイには若者が集まるエリアや中華街などがありますが、そこに注目されるブランドが1店舗進出すると、その後に出店オファーが集中する傾向があります。こうした場所でブランディングを行い、その後はオンライン販売に重点を置きながらブランド価値を高める戦略を取ることはあります。ショッピングモールへの出店は最小限に抑え、路面店を1号店にするという選択肢もあります。

つまり、海外での出店戦略はブランドごとに異なります。それぞれの独自性や商品の特性に合わせて、最適なアプローチを選択する必要があります。

 

Q.  2022年にショールーミングストア「Meetz STORE」をオープンしましたが、ここも日本企業の海外進出を視野に入れているのでしょうか?

川口そうですね。私たちはMeetz STOREが「海外への進出の入り口」となる場所であることをアピールしています。認知が上がることで非百貨店ブランドが百貨店ブランドとして成長し、そして次にはグローバルブランドへと発展していく、そのプロセスをサポートするサービスを弊社では提供しています。Meetz STOREに出展するだけで、百貨店の既存顧客やインバウンド顧客との接点を獲得するだけでなく、「グローバルブランドになるためのファースト・パス」を最短で手に入れることができるのです。

もちろん、D2C志向のオーナーたちは、元々ブランド価値を独自の方法で高めることにこだわりを持っているので、すべてのD2Cブランドが百貨店進出を夢見ているわけではないという視点も大切にしたいと考えています。

 

 

日本では知り得ない市場や業界の構造を、理解するのが第一歩

Q.  日頃から多くのD2Cブランドと接点がある川口さんは、ブランドが何を求めていると感じますか?

川口Meetz STOREOMOOnline Merge Offline)のモデルを採用しているため、デジタルのデータに期待が寄せられますが、出展者の方々とのコミュニケーションを通じて、定量的なデータよりも定性的なデータの方が圧倒的に反応は良く、多くの質問が寄せられます。接客を通じて得られるお客様一人ひとりの生の声から「インサイト」を引き出すことは、将来のビジネスにおいて非常に重要な価値を持ちます。デジタル上ではそれができないからです。

たとえば、「この水はおいしいです」という声は、実際にはおいしいと思っているわけではないかもしれませんし、もっと改善点があると思っているかもしれません。また、まあまあ気に入っているかもしれませんし、そうではないかもしれません。こうしたインサイトは見えないため、もし消費者の隠れた心理や潜在的な購買欲求を引き出すサービスを提供できれば、従来の固定概念を覆すような、まったく別次元のマーケティングが可能になるはずです。

これら「データを通じたマーケティング」と、「ブランド価値を高めることができる販路」の2つを求めていると考えています。

 

Q.  海外のD2Cブランドも、求めていることは同じなのでしょうか?

川口求めていることは日本と同様に「マーケティング」と「ブランディング」だと思われます。

たとえばタイでも昨年頃から、コロナ禍のオンライン需要拡大を背景にD2Cブランドが次々と登場しています。その中にはわずか半年でヒットを飛ばしたメーカーもいくつかあります。

中国では、C2MConsumer to Manufacture)という完全受注生産型のビジネスモデルが台頭しています。アリババやJDなどプラットフォームはさまざまですが、物流の場ではなく、ライブコマースとC2Mを組み合わせて、顧客のデータをもとに工場が新商品を製造し、適正な価格で直接販売する場を提供しています。さらに、ソーシャルメディアとの連携により顧客のデータも取得し活用しています。中国では、プラットフォームを従来とは異なる役割を果たす場として活用するのがトレンドのようです。

 

Q.  そうしたニーズや行動の変化に、Meetz STOREはどう対応していく予定ですか?

川口Meetz STOREではさまざまなアイデアを検討していますが、その中でも注力しているのが「ライブコマース」です。

現在、Meetz STOREは「OMOのショールーミング」から「越境EC」「海外卸」までの支援サービスを提供していますが、今後は「マルチチャネル化」と「インタラクティブな体験」をさらに進化させていきます。

新型コロナウイルスの影響で、世界の消費購買動向やライフスタイルは大きく変化しました。中国では海外渡航や国内旅行が制限される中、オンライン売上が相応の伸びを見せ、中国のライバーたちも多数来日しています。ライブコマースは、チャット機能を通じて視聴者と配信者が直接的で密接なコミュニケーションを取ることができるため、重要なキーワードといえるかもしれません。

まだスタートしたばかりですが、シンガポールのエージェントと組んで、ライブ販売を通じて、まずはMeetz STOREにインバウンドの来店を促進しています。Meetz STOREからライブを発信して、そこで来店時に使えるクーポンを配布する計画です。現地のどこかの商業区画を借りて、サンプルを置いて発信できたりライブにつながったりできるMeetz STOREの海外店舗も考えています。

 

Q.  日本企業がグローバル化を進める際には、今後どんな視点が必要でしょうか?

川口日本企業のグローバル化には、次のような視点が重要になるでしょう。

法人の場合、業態によって持つ事業や組織機能は異なるため、成功を収めるには現地での連携パートナーシップの構築が不可欠です。進出を検討する国で成功したい場合、最も強力な小売業者や商業デベロッパーとのパートナーシップを検討することをおすすめします。我々のアレンジで現地に訪れて、主要な商業施設や場所を一日でも回り、自社ブランドの海外進出を通じたブランディングの方向性を固めて、現地パートナーに提示することが、成功への近道となるでしょう。

個人事業の場合は、現地の市場や業界の構造を理解することが不可欠です。海外進出のノウハウと業界の専門知識を持っている方であれば、効率的なパートナーとしてどの銀行や物流会社を選ぶべきかがすぐにわかるでしょう。しかし、ネット上での情報収集だけではなかなかそうした情報にたどり着くことは難しいです。現地の情報が限られ、海外取引を俯瞰した構造的な理解がない状況では、計画が思い描いた通りに進まず、計画の修正が困難で失敗するケースも多く見られます。

TTICが本社を構えるシンガポールでは、日本の大手メーカーが頻繁に現地を訪れています。現地で生の情報を得ることで、消費者の特性や動向を把握し、「この国のビジネス相関関係はこう動いている」といった気づきを得ることができます。また、連携するパートナーとの議論の中でアイデアや方向性が浮かび上がることもあります。現地に目を向け、パートナーと協力して、海を越えたビジネスを構築するためには、スピードを持って迅速に行動することが何より重要です。

川口 貴明

タカシマヤトランスコスモスインターナショナルコマース マネージングダイレクター 兼 CEO

1969年生まれ。1992年株式会社 髙島屋入社。京都髙島屋の婦人服売場に配属後、イタリア・ミラノ駐在員として現地ブランドとの商品開発や買付、契約などに約10年間従事。帰国後は婦人服やラグジュアリーブランドのバイヤー、百貨店店舗のマネジメントに携わったのち、2015年TTICに出向。2021年8月マネージングダイレクター兼CEOに就任。

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