「情報過多シンドローム」という状態があるように、現代人の脳は溢れる情報を処理しきれずにいます。その中でも人は日常生活において80%以上の情報を視覚から得ていると言われています。逆に、視覚から得る情報量をコントロールできれば、視覚以外の五感(視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚)がもっと豊かに使えるかもしれません。
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人間の五感による知覚(情報判断)の割合は「視覚83.0%、聴覚11.0%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、味覚1.0%」『産業教育機器システム便覧』(教育機器編集委員会編 日科技連出版社 1972)
このデータからもいかに日常生活において、私たちが視覚情報に影響を受けているかがわかります。
そう考えると、夜が怖いのは、暗いことで視覚から得る情報が足りないからなのかもしれません。
夜道で、後ろからついてくる足音が怖いことも、
夜道で、聞く音楽がなぜか心に沁みるのも、
視覚から得る情報が足りず、聴覚が敏感になっているからだと言えるかもしれません。
視点を変えると、視覚から得る情報量を減らすことができれば、
その他の嗅覚・聴覚・触覚・味覚を敏感な状態にできると、仮説を立てることができます。
デジタルデバイスとSNSの普及によって、私たちの目と脳は、毎日疲れ切っています。
そのような状況においても、我々のように、コミュニケーションビジネスをしていると、
ついつい消費者に少しでも多くの視覚情報を詰め込みたくなりますが、目と脳が疲弊している現代人にとって、
それは逆効果なのかもしれません。
では、どうすれば視覚から得る情報量をコントロールできるのか。
私たちの周りには、視覚から得る情報量をコントロールした様々な遊びや、サービスデザインがたくさんあります。
例えば、この夏、何十年か振りにスイカ割りをしたのですが、まるでコント番組のように盛り上がりました。
目隠しをしてしまうと、周りにいる人の声だけが頼りになります。
嘘をつく声、本当の声の中から、信じられる声を探し、聴覚だけを頼りに、スイカににじり寄ります。
視覚を遮断するだけで、ただただスイカを割るという行為が、ひと夏の思い出になります。
他にも、視覚情報を完全に遮断したまっくらやみエンターテイメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。
(気になっているものの、いまだに筆者は行けていないのですが)
暗闇で視覚を完全に遮断されると、ただ歩くだけでも情報量が足りず、一歩がなかなか踏み出せないそうです。
スイカ割りと同様、真っ暗闇の中では研ぎ澄まされた聴覚と、白杖から得られる触覚だけが頼りになります。
視覚から得る情報量をコントロールすると、ただ歩くという行為がエンターテイメントなります。
また、視覚障害者の気持ちをエンターテイメントコンテンツに変換して、
多くの人に体験してもらうというサービスデザインの視点も素晴らしいなと思います。
私自身は体験したことがありませんが、闇鍋もきっと盛り上がることでしょう。
この場合は、嗅覚と味覚が非常に重要な情報源になります。
アパレルや、小売などの店舗に目を向けても、
視覚情報のコントロールはブランディングにおいて非常に重要になります。
例えば、ファストファッションは商品カラーや、
デザインバリエーションの展開数がとても多く、視覚から得る情報量が多く、選ぶ楽しさを感じます。
反対に、同じグループ傘下でもデザイナーズブランドは商品点数が少なく、
視覚から得る情報量が少ない代わりに、他の知覚に気を配られていることがわかります。
スタッフの声の掛け方や口調は聴覚に心地よく、お店によっては心地よい香りが嗅覚を刺激します。
視覚から得る情報量を少なくすることで、一点の商品をじっくり手に取り、
触覚で商品の品質を感じさせることもできます。
視覚以外の知覚を効果的に利用していることがわかります。
飲食店も同様です。
高級店は、味覚と嗅覚で料理を最大限に楽しむために、店内の視覚情報は極めてシンプルなことが多く、
味覚と嗅覚を邪魔しません。
なんの科学的根拠もなく筆者が感じていることに過ぎませんが、情報が溢れかえっている現代において、
視覚から得る大量情報の大半は、脳が処理しきれず、垂れ流し状態にあるのではないかと思います。
日本人は余白の使い方が上手いと言われています。
そんな我々だからこそ、視覚から得る情報量をコントロールして、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を活用した心地よさをもう少し追求できるのではないかと思います。
これからは視覚から得る情報量をコントロールし、知覚をデザインすることが、新しいサービス開発やブランディングにおいて、とても重要になってくるのかもしれません。
植村 徹
PRODUCER / PLANNER
クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。