デイミアン・チャゼル作品が好きでバビロンをみに行ってきました。20年代黄金期ハリウッドの狂乱と時代の移り変わりを描いた作品。映画を観て、私がまだ20代でデザイン事務所に勤務していたころを思い出しました。
どんな業界にも時代の移り変わりや世代交代があります。当時の私は、仕事を超えてデザインそのものにのめり込んでいました。事務所でのデザイン業務も新しいことへの追求や、自分にしか出来ない表現をしようと奮闘していたし、同僚との会話も最近どんなデザインが良いだの、新しい雑誌の話しなどばかりしていました。
休みの日には美術館に行くか神保町で好きな古本を探したり、たまに早く帰れる仕事帰りには必ずタワーレコードの洋雑誌コーナーと、パルコブックセンターをハシゴしていました。恐らく給料の半分はデザイン関係の雑誌や本、美術館代に消えていきました。

バブルは終わってはいましたが、今よりは社会も元気な雰囲気もあり、仕事はほぼ毎日深夜過ぎるにも関わらず、その日遅くまで残っていた同僚達と毎晩飲みに行っていました。よく行っていたのが会社近くのバー青山。
そこはその当時のクリエイターのまさにバビロン的な、社交の場所でした。バーテンダーはボーイさんという、我々世代が昔の宝島とかに出ていたのを目にしていた方で、音楽やファッション業界のカリスマ的な存在でした。なので客層が音楽業界からファッション業界、また我々デザイン業界が夜な夜な集まるバーとなっていたのでした。インディーな渋谷系歌姫と当時付き合っていた某有名アイドルがいたと思えば、バーの小さなDJブースには大箱も集客できるほどの有名DJがダンサブルな普段の選曲とは違い、しっとりしたジャズをかけていたり。有名ファッションデザイナーや、雑誌の巻頭や広告などを撮影するフォトグラファーがいたり。また私の憧れていた有名アートディレクターの方々とも飲みながらお話しをさせて頂いたりしました。

ひと夜の夢のような時間

　その中の一人、ユーミンやサザンなど多くのジャケットデザインなどを手掛けられていた、信藤三雄さんの訃報が先日報じられました。当時、信藤さんはコンテンポラリープロダクションと言うデザイン会社をやられていたので、不定期でバー青山でコンテンポラリーナイトというイベントをやっていました。それにあやかって、我がcapもやろうということになりcapナイトを企画してバー青山で行いました。代表の藤本さんにもDJをしてもらい、山下達郎のレコードをかけていたことも今は懐かしい思い出です。中島英樹さんもお亡くなりになられ、タイクーングラフィックは解散しました。
バーテンダーのボーイさんはその後、何軒か違うバーを作って営業されていましたが、だいぶ前に亡くなられてしまいました。音楽もデザインも渋谷系と言われていた私の若き日にみた黄金期でした。それを体験できたバー青山は、まさにひと夜の夢のような、そんな時間でした。

新しいカタチでの体験価値

　また、最近話題のchatGTPはどの様になるのだろうか、という話しで若いプログラマー達と盛り上がりました。彼らは「時代が効率的になればなるほど体験価値が上がっていくのでは」と考えていました。
現に若者は最近は立ち飲み屋に行き、豆からコーヒー淹れて飲みます。「まさに雑誌とか、これから価値でるかもしれませんよ。」20代のプログラマーに私はそう言われましたが、私にはまた雑誌を若者が買って楽しむ時代が帰ってくるとは想像しにくく、ただ彼らの言っている体験価値は高まることには共感出来ました。新しいカタチでの体験価値とは、どんなものになるのか今は想像できませんが、人間の本質的欲求は変わらずとも時代は変わっていきます。
ただ、生き続けるために必要なことは変化し続けることですが、クリエイティブとは時代を作っていくことであるならば、変わらない美学もありだしカッコいいなあと、映画にバー青山の思い出を重ねてそう思いました。