一般的に、信頼がおけること、確実性、真実性、信憑性を意味します。
Forbesが2021年の「世界で最も影響力のあるマーケティング責任者」トップに選出したボゾマ・セイントジョン氏は、オーセンティシティを「ありのままを伝えること」と定義。
企業の掲げたパーパスなどに嘘がなく、その通りの姿勢を貫いていることを意味します。
エミー賞市場最多18部門で受賞した「SHOGUN 将軍」でもオーセンティシティが話題になり、そこでは「本物志向」と訳されました。
2020年の味の素冷凍食品による「冷凍ギョーザを使うことは手抜きではなく手間抜きです、という対応」や、2023年のスープストックトーキョーによる「離乳食無料提供でSNSが炎上したことへの対応」はよく例に挙げられます。
少し前になりますが、2018年のJust Do It 30周年キャンペーンでもオーセンティシティが浮き彫りになりました。NIKEはキャンペーンビジュアルに、人種差別への抗議の意を表明しNFLから追放されたコリン・キャパニック選手を起用。賛否が巻き起こり、一時は株価も大打撃を受けましたが、直後に史上最高値を更新。これは、長年アスリートを支持してきたNIKEのオーセンティシティが認められた結果ではないでしょうか。
なお、ビジュアルには「何かを信じろ。それがすべてを犠牲にすることでも」(Believe in something. Even if it means sacrificing everything)と書かれ、それ自体がオーセンティシティの本質を突いているといえます。
以上の例は社会課題に対する企業姿勢でしたが、ソーシャルグッドだけがオーセンティシティではありません。
冒頭でお伝えした「ありのままを伝えること」という定義の通り、大切なのは、矛盾しない態度です。
たとえば大衆に愛される居酒屋なら、未成年やドライバーに飲酒させない。健康を支えるドラッグストアなら、薬剤師が薬を正しく説明をする。24時間営業のコンビニなら、いつも休みなくオープンしている。
さらに、有機野菜を作る農家なら規格に則って栽培する、政治家なら公約を守る、のように個人にも該当し、じつは特別なことではありません。(こうした当たり前が最も難しかったりするのですが)
画像:ドラえもん公式サイトより
矛盾しない態度というのは、期待を裏切らないことでもあります。その代表例が、ご存じ「ドラえもん」のジャイアンです。
のび太をはじめ周囲に対して乱暴な彼ですが、常に変わらず乱暴者であり続けている点で、読者や視聴者に対して誠実といえます。「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」という理不尽さはむしろ、信頼の証なのです。
もし、あのジャイアンが周囲に優しく弱々しかったら、読者や視聴者は落胆するはずです。映画版ではイイ奴になる場合があり、ドラえもん公式サイトでも「いざというとき頼もしい」と紹介されていますが、あくまでもいざというときに限ります。デフォルトは乱暴者なのです。
ジャイアンというニックネーム、剛田武という名前にピッタリの働き(?)が、長年の人気を支えているといえるでしょう。
(本人はオーセンティシティを意識して乱暴者を演じているわけがなく、厳密には作者、藤子・F・不二雄のオーセンティシティなのですが)
自分の行動と周囲の評価は、必ずしも一致しません。どんなに企業やブランドが誠実な行いをしていても、残念ながら消費者にその誠実さが伝わらないケースもあります。
その差を埋める手段として、社会を一つの物語と設定し、そこでの「役柄」を考えてみるのは効果的かもしれません。ジャイアンがドラえもんの世界で「乱暴者の役」であるように、ブランドが社会でどんな役なのか考えてみるのです。
たとえば、Appleは「まったく新しい発想の製品やサービスで世界をガラリと変える役」。Coca-Colaは「おいしいドリンクで人をうるおし、爽やかな気分にさせる役」。Disneyは「夢が叶う世界での体験を通じて、人を幸せにする役」といった具合です。企業のMVVでいうところのMissionに相当します。
そうして社会での役柄がわかると、役を守るために言動が矛盾しにくくなります。仮に新商品や新サービスを始めても、あるいはSNSの炎上のように不測の事態が起きても、おそらく消費者の期待を大きく裏切る結果になりにくいでしょう。
特に、オーセンティシティであるかどうかの基準は、消費者の価値観次第です。求められている役柄を、消費者との約束事としておくのは大事だといえます。以上、コピーライター 石塚勢二でした。
This is New Perspective
オーセンティシティとは、矛盾せず、期待を裏切らないこと。社会での役柄を考えると、守るべき輪郭が見えてくる。
石塚 勢二
COPYWRITER
広告制作会社で多くの企業の広告、プロモーションに携わった後、入社。コピーライティングに限らず大局的な視点に立ち、ブランドのコンセプト開発からコミュニケーション戦略の立案、動画・音声コンテンツの企画・シナリオ設計まで行う。