アフターコロナ最初の夏、日本各地に夏祭りが帰ってきました。夏祭りの帰り道に感じる独特の余韻の正体はなんなのか。今回は日本の夏の風物詩「夏祭り」が、なぜ私たちの心を揺さぶるのか、その理由を紐解いてみます。新規ブランド開発やサービスデザインのヒントになるかもしれません。
1、限定的な季節感
夏祭は、人々が外で楽しむ機会を提供します。夏の夜が醸し出す特別な雰囲気や限定的な季節感は、私たちに楽しさやワクワク感をもたらし、それによって感情が高まります。
2、伝統と文化
夏祭りは多くの場合、地域の伝統や文化と深く結びついています。伝統的な食べ物や衣装、音楽、踊りなど、その文化に触れ合うことができます。このような要素が、日本人が持つアイデンティティや誇りにつながり、感情的なつながりを生みます。
3、人々の交流
夏祭りは、友人や家族と一緒に楽しむ機会を提供します。人々が集まり、笑顔でコミュニケーションを取り、一緒に楽しむことで、感情的なつながりや幸福感が高まります。
4、五感を刺激する体験
夜空に華やかな花火が咲く瞬間、盆踊りの音楽、夢中で屋台のゲームに挑むとき、お祭りの匂いや音が五感を刺激します。この刺激的な体験が、特別な世界へと誘います。
5、一時的な逃避
夏祭りは、日常のルーティンから一時的に離れ、楽しみや喜びを追求する非日常になります。このような逃避感が、エモーショナルな感情を引き起こします。
夏祭りが私たちの心を揺さぶるのは、これらの要素が相互に影響し合い、特別な体験と感情的な共鳴を引き起こすからです。その魔法に触れると、私たちは普段感じることの少ない豊かな感情や喜びを体験することができます。
夏祭りには、本来様々な目的がありました。
例えば、収穫の時期に行われる祭りは、豊かな収穫を願い、神々への感謝を表す場として。宗教的な行事や神聖な儀式と結びついていることが多く、神や神聖な存在への祈りや供物を捧げる場として。他にも疫病や厄災を遠ざけるための儀式や祈願が行われる場としてなど。これらは一例ですが、現代の夏祭りは、その歴史的背景や文化的意味を尊重しつつ、地域の交流の場として存続しています。
また夏祭りを彩る「浴衣」にも本来の目的がありました。浴衣は本来、貴族がお風呂にはいる時に着られた着衣でした、そこから浴衣は寝間着、湯上り着と用途を変えていき、現代では夏祭りを彩る楽しみの一つとして楽しまれています。
夏祭りや浴衣は歴史的な背景を尊重しつつも、現代では伝統と新しい価値を融合させ、多くの人々に愛される夏のイベントとして続いています。伝統を大切にしつつ、新たな時代に合わせて進化していく様子が、夏祭りや浴衣の魅力の一部と言えます。
「季節限定感」「伝統と文化」「人の交流」「五感の刺激」「非日常」どれも重要な要素ですが、その中で注目したいのは伝統と文化です。伝統と文化が加わることで、小学生から、カップル、おじいちゃん、おばあちゃんまで、様々な世代の人々が楽しめる場となっています。また、若い世代にとっての楽しみの一つである浴衣を着ることも、伝統と文化が背景にあるからこそです。伝統と文化が加わることで、日本人であることのアイデンティティに触れる心地よさが生まれます。そして普段感じることの少ない豊かな感情や喜びを体験することができます。
夏祭りはそこに訪れる人が主役のストーリーが生まれる舞台になります。盆踊りを楽しむ地域の人々、浴衣に身を包みいつもと違う表情を楽しむカップル、やんちゃな男子たち、目を輝かせる子供とその表情を楽しむ親子。筆者の夏祭りの思い出も、幼少期、青春期、そして親になってから子供と行った夏祭りの思い出、どれも色褪せることがありません。
夏祭りは世代を超えて、人それぞれの余韻を持ち帰ることができます。
日本人の心に染み入る夏祭りを紐解くと、5つの要素が見えてきました。
夏祭りには、昨今のサービス開発やブランド開発において重要視されている多くの要素が含まれています。さらに伝統や文化が加わることで、日本のアイデンティティに触れる心地よさが得られ、地域との繋がりや世代を超えて楽しめる魅力につながっています。
消費者の心を揺さぶる新しい体験や、サービスを開発する中で行き詰まったら、「伝統と文化」を要素として取り入れてみたら、なにか新しい視点が見つかるかもしれません。
植村 徹
PRODUCER / PLANNER
クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。