シナモンロールを読み間違えた。 高齢のご夫婦でやっている近所のパン屋さんのアイデアパン。シっぽいツだったこともあるが、せっかちな性格のせいか、よく読み間違えることがあり ます。
昔、某雑誌で有名なデザイン事務所の就職面接でもbikiniっていう海外の雑誌名をバイキンて間違えて覚えたのを伝えて、難関を見事合格!ほとんどの海外雑誌を知っているAD社長からは新しい雑誌への感度の高さを評価された。最近だとudemyというe-schoolも「ウデマエ」と読めたりして、良いネーミングだと感心しました。
間違えて読んだり解釈したものって以外に良いアイデアに繋がったりすることもあります。良いアイデアとは=ニューパースペクティブ(新しい視点)の発見でもあります。
何故かというと正解は誰もが見た事あり、思いつくものだからです。例えば、最初の携帯電話は誰もが見たことのない画期的なアイデアでした。しかし高解像度な撮影が可能な携帯はニーズに対する正解のアイデアで、それ以上でも以下でもありません。
よくクリエイティブはソリューションみたいな言い方をされますが、私たちの会社は問題解決の正解だけではクリエイティブだとは考えません。
クライアントからの問題を解決することは正解…「本当に正解だろうか?」からクリエイティブをスタートします。
視野の広さを想像してみてください。
正解は机の上で答案用紙に今まで学習してきた経験値を活かして取り組むことですが、クリエイティブは、何故クライアントはそのような問題を持ったのかを様々な角度から検証します。
=クライアントになる!ところから始めることが視野を広げるためには重要です。
以前、飛騨産業のhidaというブランドの立ち上げに関わったことがあります。ブランドのディレクターに就任したのはエンツォ・マーリー。エルメスやドリアデ、ダネーゼやカッシーナ、あげればキリがないほど様々なブランドで活躍されているイタリアのプロダクトデザインの大御所。日本では無印良品なども手掛けています。
クライアントから期待されたのは良い家具のデザイン。
ところがなんとマーリーは熟練された職人の技術の否定から入りました。
クライアントの問い、お願いをクライアントの否定からスタートさせたのはいかにもマーリーらしいし、流石だと思いました。理由は熟練された技術を使って装飾が施された高級な家具のニーズが見えずらかったからです。しかしクライアントからすると高い技術を高く売って欲しい、そう思っていたと思います。
ところがマーリーが最初に提案したのは、いかに安くブランドアイコン的な椅子を作るか、そこから始めることでした。
飛騨にはスギの木が周りの山々に豊富にあり、これを使えば材料コストは抑えられる、マーリーは飛騨を訪れた際に囲まれた山々を見てそう考えました。だが杉は柔らかすぎて家具には適さないと、当初は難航。
そこで柔らかいなら硬くすれば良い!またまたシンプルな発想でスギ板をプレスして強化する機械の開発しました。その際クライアントの懸念はスギ材にはフシの大量廃棄でした。今までも他の建材のフシの部分は廃棄していたので、スギだとかなり廃棄しなくてはなりません。
そんな問題にマーリーは「フシは自然の恩恵からなる材の特徴になり、尚且つ美しいのでそのまま使用する」ことを提案し、結果的に更にコストが抑えられた。
強化されたスギ材を使って、マーリーによりデザインされたプロダクトはミラノサローネで発表され、日本の高い技術力と自然がもたらしたフシを活かした素晴らしいデザインが高く評価されました。
私はマーリーと会場構成やBIなどを光栄にも取り組ませていただき、一緒に仕事をする中、良いデザインとはコストと哲学だと教わりました。哲学はなんとなく理解していましたが、コストを大御所であるマーリーが大事にしていたのは少し意外でした。コスト!コスト!と常にプロジェクト中に言っていたことが印象に残っています。
マーリーはまさにクライアント側の視点を大事にしつつカスタマーと、社会とのコミュニケーションを作ったのだ。振り返ると、クライアントの問いに対する正解は新たなプロダクトデザイン。
それに対し提案は材を強化するプレス機から始めること。視野広さは明らかに後者で、だから新たな視点の発見ができたと思います。
問題を解決しようとか、そもそも問題は何だろうかと考えることは時に視野は逆に狭まる。アイデアを考え出そうとすればするほどにそれは逃げていくこともあります。スポーツでも力身は良くないと言われているのと一緒ですね。
常にフラットに周りの様々ものに興味を持っていれば視野は広くなり、新しい視点は発見しやすくなります。
ツナモンロールも案外流行るかもしれません。
野口 孝仁
PRESIDENT & CEO / CREATIVE DIRECTOR
1999年、株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート設立。「ELLE JAPON」「装苑」「GQ JAPAN」「Harper’s BAZAAR日本版」「東京カレンダー」「FRaU」など人気雑誌のアートディレクション、デザインを手がける。現在はエディトリアルデザインで培った思考を活かし、老舗和菓子店やホテル、企業のブランディング、コンサルティングなど積極的に事業展開している。 著書「THINK EDIT 編集思考」(日経BP) 講師宣伝会議「アートディレクション養成講座」「編集物ディレクション講座」「デザインシンキング実践講座」など多数