Z世代(1990年代半ば~2010年代序盤生まれ)のライフスタイルが多方面で話題ですが、今回はそうした「世代」による分類のメリットやリスクを改めて考察しました。最後に、世代に対する常識や思い込みにとらわれることなく人物像を把握する方法も紹介します。
はじめに、話題のコントグループ、ダウ90000の蓮見翔氏の言葉から。
Z世代なんか誰もZ世代の認識ないじゃないですか。おじさんたちが若者をくくる時に使っているだけの言葉で。 (NHK「あたらしいテレビ 2024」より)
今、多くのマーケティング関係者がZ世代に注視する中、一部ではすでにポストZ世代に目が向けられています。
それはオーストラリアの世代研究者Mark McCrindleが考案した、α(アルファ)世代(2010~2024年頃生まれ)です。以降はベータ世代、ガンマ世代と続くとされています。
Z世代以前の生まれはX世代、Y世代と呼ばれますが、そもそも人は昔から世代で分類されてきました。
団塊世代、しらけ世代、新人類、バブル世代、団塊ジュニア、氷河期世代(ロスジェネ世代)、ミレニアル世代、ゆとり世代、さとり世代といった具合に。
スポーツでも松坂世代、お笑いでも第7世代と、世代による分類は通例となっています。
これは日本に限った話ではなく、X世代やY世代が元々は海外で提唱されたGeneration X、Generation Yであるように世界共通の分類方法なのです。
消費者を世代で分類すると、人物像を把握しやすくなります。他の世代と比較すれば、その世代の独自性を理解できます。さらに、○○世代という耳慣れないキーワードを打ち出すことで手法の新しさも演出できます。
以上が世代で分類する要因と考えられますが、加えて筆者は〝人間臭いドロドロとした感情〟の存在も指摘します。
Z世代について語られるとき、語り手はたいていZ世代より上の世代です。
表面上は平静を装いながら、じつはその分析の奥では、理解できない価値観を持つ異分子への拒否反応や、自分にはもう取り戻せない若さへの嫉妬、自己肯定感が喪失してしまう恐れなど、さまざまな感情が渦巻いているのではないでしょうか。
自分との違いを知り、尊敬したり批判したりする際に手軽で便利なのが、「世代」という切り取り方だと考えています。
いよいよここからが本題です。ネット行動分析サービスのヴァリューズと三菱UFJ信託銀行の調査によると、20~40代男女の半数以上が普段からタイパを求める行動を実践。約半数が、Z世代の象徴的な行動といわれる「動画の倍速再生」を実践しているという結果が出ました。(ちなみに筆者=40代もテレビはTVerで倍速視聴しています)
これまで世間ではZ世代=タイパ、タイパ=Z世代と論じられてきましたが、必ずしもそうとは限らないようです。
○○世代で手法の新しさを演出できると先述しましたが、その解釈次第では、新しさどころか誤った分析になってしまうケースもあります。
▶️関連記事 タイパの次にくる基準「○○パフォーマンス」とは?
Aさん(2000年生まれ)Bさん(1999年生まれ)Cさん(1999年生まれ)Dさん(1995年生まれ)の4人を招いて座談会を実施しました。
Z世代と呼ばれてどう思いますか?
Aさん 社会人になってからZ世代と言われるようになって、社会に必要とされているのかな?と思いましたね。それまでは意識していませんでした。
Dさん ぼくも特に意識したことないですね。
Bさん そう呼ばれても、自分にあまり当てはまらないなと感じています。しっくりきていない感覚というか。
Cさん そうなんですよね。自分がその世代っていう気があまりしないんですよね。仮に呼ばれても嫌な気はしないですけど。
「タイパ意識」「環境意識」「デジタルネイティブ」など、Z世代の特徴に当てはまる行動をしていますか?
Aさん YouTubeよりTikTokのような短い動画を見る方が楽しいですね。YouTubeは長い動画なら倍速で見ます。そのあたりはタイパかも。
Cさん 私の場合、TikTokやショート系の動画はあまり見ないです。倍速での動画再生も、映画の早送りもしません。でも、ながら見したり動画を見ながら作業したり、複数のコンテンツを並行することはあります。
Bさん タイパで言えば、買い物前に下調べしておきますね。店頭で比較したり、他の店を巡るのはタイパが悪いので。
Dさん 環境意識なら、レジ袋をほぼ貰わないとか大量生産の服は着ないとか、そういうことはしていますよ。
Bさん そうですか。ぼくは、そこまでサステナブルの意識がないです。自分がデジタルに強い感じもしないんですよね。
Aさん たしかにデジタルネイティブですけど、全部がデジタルじゃないですね。暗記ものは手書きで覚えたいし、雑誌は紙の方が好きです。
Bさん 紙や手書きで記憶するのは、ぼくも同じです。
Dさん あとは、若者の投票率が低いっていわれますけど、今まで選挙に行かなかったことはないですよ!
Z世代でも常にタイパを重視するわけでなく、またタイパ重視派がZ世代とは限らないことがわかりました。同様に、さとり世代だからといって何かを悟っているとは限らず、シニア世代だからといってスマホが苦手とも言い切れません。
博報堂生活総合研究所も、以前は大きかった年齢層による価値観や嗜好の違いが年々小さくなってい現象を「消齢化」と名付けて研究しています。
つまり、世代による分類でわかるのは、生まれた年代が近い一つの群れのあくまでも側面。世代という照明を当てて見える一部分に過ぎず、世代とは別の光を当てれば、別の側面が見えてくるはずです。
お笑いの世界で第7世代と口にする人が激減したように、いずれZ世代も死語になるでしょう。
もちろん世代論を全否定するつもりはありません。生まれ育った社会背景は世代ごとに異なり、それが価値観やライフスタイルに大きな影響を与えます。
けれど、世代による分類はある意味レッテルを貼る行為ともいえます。一度レッテルを貼ってしまえば、その裏に隠された意外な真実を見落としてしまう危険性もあるのです。
最後に、世代に対する常識や思い込みにとらわれることなく人物像を把握する方法を紹介しましょう。それは、履歴書の右半分の深掘りです。
履歴書の左半分は氏名や性別、年齢、住所、経歴など、デモグラフィックといわれる情報。右半分は長所や短所、趣味、特技など、サイコグラフィックといわれる特徴です。
左半分の情報(今回でいう、世代という分類)だけでは、その人の性格や人間性、嗜好性を深く読み取ることはできません。そこで、右半分の特徴に注目します。
確認するのは、その右半分の特徴が「ちゃんと、わかりにくいかどうか」。
時代がVUCAと呼ばれる遥か昔から人間はわかりにくい生き物でした。筆者がターゲット像やインサイトを考察する際にはむしろ、その「わかりにくさ」を大切にしています。
たとえばある人物に、矛盾している(Aと発言しているが実際はBの行動をとっている)、曖昧である(AかBか好みがハッキリしない)、散漫している(共通点のないABCDEすべて趣味)などの特徴があると、その生々しさから、人物像の解像度がぐっと上がる気がしています。私たちは必ずしも合理的には動くわけでなく、いろいろな矛盾や曖昧さを抱えながら生きているからです。
反対に、ペルソナがステレオタイプであったり、インサイトが単純で妙にわかりやすい場合は、本当にこれでいいのか?と疑くほどです。
仮に「20代女性、神奈川県在住、IT企業勤務、趣味は韓国ドラマ視聴」という情報だけより、「韓国好きだけどミーハーと思われたくないし、知識量でマウントをとってくる同僚が面倒くさいから、今までのように純粋に楽しめないのがストレスで、別の趣味を探そうとしている。気分一新してカラダを動かす趣味にしようかと思っている」という特徴が加わったほうが、よりいきいきとした人物像が浮かび上がると思いませんか?
特徴のわかりにくさが、人物像の把握には必要。一見、矛盾しているように感じるかもしれません。しかし価値観が多様化し選択肢も増えた今、人物像にリアリティを求めるなら、特徴のわかりにくさや捉えどころのなさをすくい取り、一消費者として共感するステップは重要だと考えています。
This is New Perspective
世代のレッテルを貼ってしまうと、意外な真実を見落としてしまう危険性がある。
世代だけでなく、矛盾や曖昧や散漫などのわかりにくさも加わると、人物像のリアリティが高まる。
石塚 勢二
COPYWRITER
広告制作会社で多くの企業の広告、プロモーションに携わった後、入社。コピーライティングに限らず大局的な視点に立ち、ブランドのコンセプト開発からコミュニケーション戦略の立案、動画・音声コンテンツの企画・シナリオ設計まで行う。