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ADAN SILK

新スキンケアブランド「ADAN SILK」が早くも話題。ブランドプロデューサー石橋寧のブランドプロデュース力に迫る!

3月にローンチされたスキンケアブランド「ADAN SILK(アーダンシルク)」。ブランドプロデューサーである石橋寧(いしばし やすし)氏は、これまで「RMK」「SUQQU」「THREE」などを、次々と成功に導き、日本の化粧品業界に大きな影響を与えてきました。今回、約半年という短期間でブランドを立ち上げ、伊勢丹新宿店で3月に開催された「ISETAN BEAUTY WEEK 2025」で先行販売も実施。石橋氏が手がける新ブランドとあって、早くも話題を呼んでいます。グローバル展開を目指す「ADAN SILK」。そこにかける想いや期待、これまでも一貫して大切にしてきたブランディングの極意など、石橋氏ならではのプロデュース力に、ADAN SILKのクリエイティブ全般を担当しているダイナマイトブラザーズシンジケート(以下DBS)の植村が迫ります。

Project Info.
  • CLIENT: ADAN SILK
  • CATEGORY: BRANDING, ART DIRECTION, GRAPHIC, LOGO, PACKAGE, EVENT, WEB
  • YEAR: 2025
SPEAKER
  • 石橋 寧ADAN SILK BRAND PRODUCER
  • 植村 徹Dynamite Brothers Syndicate PRODUCER

【profile】

石橋 寧 / アーダンシルク ブランドプロデューサー
カネボウ化粧品のエキップにて「SUQQU」を立ち上げ、「RMK」 の拡大・成長に貢献。その後、ACROを新設して「THREE」「Amplitude」を立ち上げ、成功に導く。24年3月に独立し、アーダンシルクのブランドプロデューサーに就任。


植村 徹 / Dynamite Brothers Syndicate プロデューサー
クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。



【01 ADAN SILKとは】
「これは本物」と確信した、奄美生まれの高純度シルクスキンケア

植村:まず、2025年3月にローンチした「ADAN SILK」について、どのようなブランドか改めてお聞かせください。

石橋:「ADAN SILK」は、奄美大島の化粧品会社「アーダン」との出会いから始まりました。会社には30年の歴史があり、大企業に劣らない立派な自社研究所や工場、農園を持っています。まず、これに驚きました。
元々、奄美大島は世界三代織物の一つ、「大島紬」で繁栄してきました。その織り手の手が美しいことから、奄美ではシルクの効果効能が古来より伝えられていたようです。実際アミノ酸やタンパク質からなるシルクは、手術の縫合糸に使われるなど、人体との親和性が非常に高い素材です。アーダンではそのシルクに注目し、自社で養蚕から手がけ、独自のナノ化技術を駆使して高純度シルクを配合。界面活性剤不使用の化粧品を生産しています。アーダンの会長はもう85歳(当時)なんですが、肌がツヤツヤで「これは本物だ」と納得しました。

植村:会長の息子さんが、現在の社長であり、皮膚研究をされているお医者さんでもあるんですよね。それまで肌感として伝えられてきたシルクの効果を、医療の視点から研究・証明できるのも、アーダンの特徴であり、ブランドの信頼性の高さにつながっていますね。今回は、その社長から直々のオファーだったとか。

石橋:「シルクの持つ力を、アーダンの技術を、世界へ広めたい」とご相談をいただき、過去の経験が活かせるのではと、お手伝いをさせていただくことになりました。

とはいえ、グローバル展開を目指すとなると、やはり品質だけでは難しい。例えば香り。元々の製品は少し原料臭が気になりました。そこで奄美の特産品である、タンカンを使い、柑橘の爽やかな香りをつけることに。また、パッケージも洗練させる必要がありました。そこでDBSさんに相談して、奄美大島の海の色「奄美ブルー」や大島紬の模様を生かして、ボトルや外箱を魅力的にデザインしました。このようにアーダンの持つ技術や製品の魅力をよりブラッシュアップすることで生まれたのが「ADAN SILK」です。

【02 化粧品への想い】
日本の化粧品は物足りない。ニーズをつかめばチャンスはあるはず

植村:石橋さんは長年日本の化粧品業界に携わってこられましたが、最近の業界の動きや状況についてどう見ていますか?

石橋:これは化粧品に限らずですが、日本企業は「メイドインジャパン」への意識の強さから、遅れをとっているようにも感じます。特に韓国からはBBクリームやクッションファンデなどヒット商品が次々に生まれ、ここ数年で化粧品市場は大躍進しています。しかし、日本では新しいコスメは何も生まれていません。

植村:スキンケア製品では健闘しているようにも思いますが?

石橋:化粧品は、スキンケアとメイクアップの大きく2つに分けられますが、日本企業は、スキンケアに極端に力を入れている傾向があります。しかし、化粧品は「化けて」「装う」「品」と書くように、「ケアするスキンケア」と「飾るメイクアップ」両軸がなければならない。女性たちの「きれいになりたい」「変わりたい」という夢を、いろんな角度で実現できるものであるべきなんです。

多分、今皆さんが化粧ポーチに入れたいコスメに日本のブランドは入っていないと思います。入れたいのは、シャネルやディオール、トムフォードなど、デザインがおしゃれな海外のブランドでしょう。こうしたブランドのコンパクトは、ロゴを見せるために、180度開かない設計になっているのをご存知ですか? ヨーロッパはそうした、ユーザーの心をくすぐるデザインがやっぱり上手いんですよね。デザインだけではなく、例えば香りやテクスチャーなどもそうで、化粧品は使う人の五感に訴えるものじゃなきゃいけないと僕は思っています。

植村:石橋さんからしたら、日本の化粧品はいろんな意味で物足りないわけですね。

石橋:化粧品だけでなく、この30年ぐらいで日本の企業はみんなダメになっていったと思います。何もかも中国や韓国に越されて、世の中から置いてきぼりを食ってしまった。でも、逆を言えば、品質の良さに絶大な信頼のある「メイドインジャパン」が根付いた今が世界を目指すチャンスとも言えると思うんです。

今、僕はアジアの中でもインドの可能性に注目しているのですが、知人のインド人に「インドでは、メイドインジャパンそのものがブランド。あとはインド人に合うように色やパッケージをローカライズさせたら売れますよ」と、アドバイスをもらいました。それぞれの国の嗜好や文化、風土などを理解し、それに合ったものを提案することができたら、日本から世界で売れるブランドだって作れると思うんです。

【03  ブランディングの極意】
成功のためには、実際に自分の目で見て察知すること

植村:グローバルな視点が、今後日本の化粧品業界を左右するポイントになりそうですね。

石橋:お客様が欲しいものを作れば印象が良くなると思います。ただ欲しいものって何なの? ということを察知しなきゃいけないですよね。僕は日本の経営者っていうのは、もっともっと海外に行って現地を見てこなきゃいけないと思っています。やはり現地に行ってこの目で見てこその情報がありますから。

僕はこれまで毎年ロンドン、パリ、ニューヨークには必ず行っていました。そこで定点観測のように百貨店の売り場を見て回るんです。そうすると、このブランドにはすごく人が集まっているなとか、このブランドは人がいなくなったなとか、いろんなことが見えてきます。そうした中に成功のヒントがあったりするんです。例えば、あるとき、ロンドンでオーガニックやナチュラル、アロマセラピーというものがこれから来そうだと察知した。そこから立ち上げたのが「THREE」です。

植村:「THREE」は、日本の化粧品業界に大きな影響を与えましたよね。

石橋:オーガニック原料や精油を使ったブランドという意味でも新しかったのですが、当時、両極だったスキンケアとメイクアップのどちらも持つブランドであるということも驚かれました。百貨店さんが戸惑って聞かれた際に、「スキンケアとメイクの接点になる場所に売り場をください」とお願いしたことを覚えています。

植村:そこにも石橋さんの「『化粧品』は『ケアするスキンケア』と『飾るメイクアップ』の両方があってこそ」という想いが反映されていたわけですね。

【04 ブランドプロデュース力について】
プロデューサーは夢を描いてみんなを導く旗振り役。チームづくりが要

植村:今回手がけた「ADAN SILK」は、当初1年余りかけて立ち上げ準備をする予定でしたが、結果として約半年という短期間でローンチすることとなりました。そのために特に重要だったことは何でしょうか?

石橋:昨年の秋に、伊勢丹新宿店から「イセタン ビューティー ウィーク2025」へ出店のオファーをいただき、今後グローバル展開を目指す「ADAN SILK」にとって、これはチャンスだと思いました。やはり海外の代理店にアプローチする際に、日本の主要百貨店に取り扱いがあるということは大きな強みとなります。しかも、伊勢丹新宿店は年間の売り上げが4000億と世界的にも注目度の高い百貨店でもある。このチャンスをうまく利用しない手はないというわけで、多少の無理はしても2025年の3月のローンチを目指すことにしたんです。

ただ、ブランドを立ち上げるとき、時間をかければかけるほどいいものができるというわけでもない。制約の中で、最大限のパフォーマンスを出すということが、プロデューサーの手腕だとも思います。

植村:ブランドビジョンを描くということは、ブランディングにおいて重要なポイントだと思うのですが、石橋さんはいつもどのように描いているのでしょうか?

石橋:まずどういうブランドを作るか、コンセプト含めて決めなきゃいけないですよね。化粧品でいえばスキンケアだけのブランドなのか、メイクだけなのか、総合ブランドなのか。価格帯は、流通は、ターゲットは…そういうことを整理していくと、自ずと見えてくるわけですよ。ブランドプロデューサーは、夢を描いて、そこへ向かって「みんな行くよ!」と旗振りをしなきゃいけない役割ですね。

例えば「Amplitude」と「ITRIM」は、「THREE」に限界を感じていた中で生まれたブランドなんです。「THREE」ができて10年が経ち、それに合わせて顧客も年齢を重ねる中で、美意識の高い大人の女性に向けた高級で世界に通用するようなブランドが作りたかった。ただ、3つのブランドを一人でできるのか最初は不安でしたが、チームを3つ作れば可能だと思ったんです。

植村:ブランドを成功させるためには、チームづくりも重要になりそうですね。

石橋:新しいブランドを作るとき、最も苦労するのが、人探しです。そのブランドにふさわしいチームを作っていかないといけないので、それだけに1年以上かかることもあります。まず、ブランドマネージャーやクリエイティブディレクター、開発メンバーを探します。ブランドを象徴するディレクターがいると、ブランドの完成度は全く違うものになります。信頼できるチームができてしまえば、私は俯瞰から物事を判断できるので、非常にやりやすいんですよ。

【05 推進力を生むために必要なこと】
マーケティングには直感も大切。心に残るプロモーションの裏側

植村:石橋さんは発信するメッセージがとてもキャッチーで関係するスタッフを惹きつけるのですが、僕は石橋さんの「立って1品、座って2品、触って3品買うと、人は満足する」というお話がとても印象深く残っています。「言葉」について何か意識していますか? 

石橋:この言葉は、人が買い物するときの心理ですね。まず、立って目的のものを買う。次に座って2品目。歩き回って疲れている中で一度座ってしまうと長居したくなるんですよね。そこで勧められたものをつい買ってしまうわけです。そしてついでにとタッチアップを受けると、気分も上がって3つ目。そうすると、満足度は一気に高まります。

植村:「Fiveism×THREE(ファイブイズム バイ スリー)」の立ち上げ時に伺った「美しいエクゼクティブが増えれば日本は変わる」という言葉も、個人的には大好きでした。

石橋:何気なく言ったことが心に響いて、覚えてくれている人は案外多いようです。でも、本人は忘れてしまっているんですよ(笑)。おそらく直感で話しているだけなんです。

植村:そうした直感こそ、石橋さんのブランディングの極意なのかもしれませんね。今回の短期間のローンチ実現には、石橋さんの決断の早さも大きかったと感じます。

石橋:決断は3分以内。よっぽどなことじゃない限り、僕は迷いません。それは今起きている課題に対する答えを常に考えているから。それにこれまで積み重ねてきた経験と知見によって、大体のことは「こうすればいい」と判断できます。悩むってストレスになるじゃないですか。僕は、ストレスをできるだけ溜めずに、自由気ままに生きていたいというのがすごくあるんですよね(笑)。

植村:石橋さんは、ブランドビジョンを描く上でマーケティングも同時にお考えだと思うのですが、そこでもやはり数字だけに捉われず、直感も大事にされているように感じます。その例として、桜前線と合わせて行った「THREE」の「サクライズム」のプロモーションは印象的でした。

石橋:「THREE」を立ち上げて、10年は話題を提供するブランドにしようと決めていたんです。お金もないし、広告を出すのも限界がある。そこでいろんな商品を作って、雑誌に興味を持ってもらうようにしたんです。記事になれば情報発信できるから、ブランドの鮮度を保てる。絶えずそうやって話題を作っていこうと考えていました。

「サクライズム」は2016年のコレクションです。まだ「THREE」のブランド認知もできあがっていないときで、僕はとにかく話題を作りたかった。百貨店では、クリスマスの時期、人気ブランドの売り場に限定のコフレを求めて行列ができますが、あんなふうに「THREE」に行列を作る仕掛けを考えました。そこで思いついたのが、桜の開花に合わせて、南から桜前線が北上するように、九州を皮切りに順次発売するプロモーション。事前予約は一切なしで、店頭に並んで購入いただくようお願いしました。通常どこの百貨店からプロモーションを始めるか、気を遣うものですが、桜前線をコンセプトに置いたことで、主要百貨店に対する忖度も必要のない企画になりました。

植村:その結果、大きな話題となり、「THREE」の認知度も一気にアップしたわけですね。

【06 ADAN SILKのこれから】
「好き」を大事に。ADAN SILKとともに広げる可能性

石橋:私がこの仕事をする上での3つのキーワードがあるのですが、まず一つは「化粧品が好き」だということ。やはり化粧品ビジネスをやっている人が化粧品を好きじゃなきゃ何もできないと思うんです。ところが多くの日本の化粧品の経営者は、まず化粧品に関心がない。あくまでもビジネス視点なんですよね。二つ目は「百貨店が好き」ということ。今、日本の大手企業が相手にしているのはドラッグストアですよね。でも、僕は百貨店が好きだから、そこにこだわってものづくりをしているんです。そして三つ目は「海外が好き」ということ。海外に行くと、刺激をもらえるし、勉強にもなるし、遊ぶこともできる(笑)。

植村:「好き」ということが石橋さんのパワーになっている。だからこそ、バイタリティーを持って仕事を続けることができるのだということがよくわかりました。
最後に、ADAN SILKを今後どのようなブランドに成長させていきたいですか?

石橋:まず、アジアのマーケットを狙うにあたり欠かせないホワイトニングラインを1年以内に作りたいと考えています。その次のステップは、やはりメイクアップライン。アジアの方々にも合うアイシャドウや口紅など、カラーアイテムも展開できたらと考えています。もちろん百貨店に直営店舗も作りたいですね。1号店は海外ということもあり得るだろうと思っています。全てはタイミングですから。

植村:本日は貴重なお話をありがとうございました。石橋さんの情熱と、ADAN SILKの今後の展開が非常に楽しみです。DBSもクリエイティブの側面から最大限にご協力させていただきます。引き続きよろしくお願いいたします。

SPEAKER

石橋 寧

ADAN SILK BRAND PRODUCER

植村 徹

Dynamite Brothers Syndicate PRODUCER

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