Famy
ペットシーツや猫砂を扱うFamyが、ペット総合ブランドへとリブランディングしました。犬にも猫にも人にもやさしい社会を目指すには、何をデザインし、どんなアプローチが効果的なのか。撮影の裏話も含め、ペットブランドならではの体験談をプロジェクトの主要メンバーに聞きました。
Q このリブランディングで何が大きく変わったのでしょうか?
井上:ロゴが変わったりブランドサイトがリニューアルしたり、いろいろありますけど、写真や言葉を通じてブランドの想いがより伝わるようになったと思いますね。
佐野:そう思います。元々、プロダクトを取り扱うブランドだったんですけど、これからは製造・販売だけじゃなくて動物愛護活動にも取り組んでいくので、ブランドの思いが伝わるようにデザインする必要があったんです。
井上:そうそう。それで、クライアントとのディスカッションで出てきた「やさしさ」というキーワードをもとに撮影プランを考えました。たとえば、人と犬や猫が触れ合うシーンは、クライアントの要望もあり、引きだと表情がわからないから寄り中心で、カメラ目線じゃない自然体。奥の抜け具合とか光の当たり方とか色のトーンも意識しました。
土江:バッチリ決まった写真より、愛情を感じる表情とかリラックスした雰囲気が伝わる写真をイメージしてましたよね。前後にぼかしが入った、日常のひとときを切り取ったような。
井上:そうだね。あとは、明るさや温かみが感じられるかどうか。
土江:ブランドサイトがブルーを基調としているので、そのデザインの中で映えるように明るく、っていう狙いもありました。
Q 犬や猫が相手ですが、実際の撮影は順調に進みましたか?
土江:今まで動物の撮影経験がなかったからとにかく不安でした。で、当日、始まってみたら、猫がなかなか環境に馴染めなくて棚の下に隠れてしまったり(笑)。
佐野:ごはんをあげるシーンで「待て」って言っても待ってくれなかったり(笑)。
井上:いろんなハプニングがね……。
土江:トラブルは事前にある程度想像してたんですけど、実際に直面するとやっぱり焦りますね。ただ、現場は知らない場所で人も多いじゃないですか。私が猫ならその状況は怖いから、隠れちゃう気持ちもわかりますよ。
佐野:人の撮影みたいに「かわいい!」ってみんなで盛り上げても、犬や猫は余計緊張しちゃうんだよね。
井上:だから少人数体制で、僕は離れた場所から見守るしかできませんでした。
佐野:人数もそうですけど、撮影の場所と時間にも気をつけましたね。スタジオの2階を犬、3階を猫の撮影と分けて、午前は猫、午後は犬と時間もずらしたんです。鳴き声が聞こえたり、知らない匂いがするとストレスになりますから。
井上:細かい話だけど、ラグを持ち込んだりしたよね?
佐野:スタジオがフローリングだから、犬や猫が滑らないようにケアしました。
土江:振り返ってみると、みんなが犬と猫のことを一番に考えてる撮影でした。
佐野:犬猫ファーストだったよね。
土江:そういう温かい空気だったから、素敵な写真が撮れたんだろうなって思います。こちらの思うように動いてくれなくても、無理に撮影を進めるのは避けたかったから、飼い主さんにしばらく粘っていただきました。それで少し動き始めたタイミングで、フォトグラファーさんにその様子をうまく捉えていただきました。
Q フォトグラファーはどのように選定したのでしょうか?
井上:動物の撮影に慣れているのはもちろん、Famyの想いや活動に共感してくれる人を重視しました。それで、動物保護関連の活動をしているフォトグラファーさんをリサーチして、最終的にPIPSさんにお願いしました。犬や猫への接し方が本当に上手だなと思いましたね。
佐野:犬や猫はコントロールできない前提で、「時間は区切らなくていいので付き合いますよ」という犬猫中心のスタンスでしたよね。そこはFamyと同じなので安心でした。
土江:Famyの想いに共感して一緒に活動していく方々をFamy Chainと呼んでるんですけど、PIPSさんもその輪に入りましたよね。
井上:もちろん、僕たちDynamite Brothers Syndicateもその一員ですよ。
Q 撮影に限らず今後の活動も、そのコミュニティが要になりそうですね。
井上:そう思います。フォトグラファーさんや僕たちと同じようにFamyの想いに共感してくれる人が増えていくことで、目指す社会に近づきやすくなるはずです。
佐野:そのためのクリエイティブでしたよね。私たちが提案したのは。
井上:象徴となるロゴの存在は大きいですね。Famyの皆さんは、こちらの制作意図に共感して「早く使いたい」って言っていただいたんです。それはロゴ展開の第一歩だし、コミュニティづくりの意味でも第一歩だなと。
佐野:ブランドサイトの役割も大きいと思いますよ。今、動物愛護団体ってたくさんありますけど、その入口が言葉だけだと、犬を飼ってる私でも壁を感じてしまって参加するのが難しい。でも、Famyのブランドサイトみたいにやさしい雰囲気だと気軽に参加できますよね。
井上:やさしいし、実際の活動も見えるからね。
土江:新しいサイトでは、活動を発信するコンテンツも用意しました。というのも、犬や猫が今どういう状況かって、まだまだ社会に浸透していないと感じてます。具体的には、殺処分の現状や保護犬・保護猫への認識なんですけど、私自身このプロジェクトに関わる前後で認識が大きく変わりました。
井上:確かにペットに対する意識は変わったよね。
佐野:私は、自分のわんこのフードの、気をつけるレベル感が変わりました。素材や分量を細かくケアしているFamyさんを通じて、やっぱり人間がなんとかしてあげないと!って思えるきっかけをいただきました。
土江:そういう変化があるから、現状の課題だったり、それに対してどんな活動でアプローチしているかを発信し続けるのは大事だと思います。そうすることで少しずつ共感と信頼が生まれるんだと思います。
井上:殺処分のリアルな裏側を知って、僕も思いました。かわいいとか楽しいとかだけじゃないなと。それでもクリエイティブで表現しないといけないから、さっき言ってたやさしい雰囲気がありつつ、上辺だけのやさしさに見えないように心がけました。それは〝真意〟とか〝本気〟を伝えて、共感を集めるってことかもしれません。
土江:Famyの皆さんの想いや事業に対する本気度に毎回心を動かされましたけど、その向き合い方だったり犬や猫への愛情は、デザインでも言葉でもどんな媒体でも滲み出てくるものじゃないでしょうか。それは、企業・個人関係なく犬や猫と暮らすコミュニティの人たちに伝わると思います。
井上 宏樹
Dynamite Brothers Syndicate ART DIRECTOR
土江 瑚子
Dynamite Brothers Syndicate DESIGNER
佐野 佐久
Dynamite Brothers Syndicate PRODUCER