Story

benchmark TOKYO

スタンド以上カフェ未満の空間オープンの舞台裏と今後の展望。

「目線が上がる、街角の新しい起点。」をコンセプトに渋谷区千駄ヶ谷にオープンしたのが、スタンド以上カフェ未満のbenchmark TOKYO。この店に寄せるオーナーの想いから商品開発の裏側、必要なデザインまでオープンに至る経緯をブランディングの中核メンバーに聞きました。

Project Info.
  • CLIENT: benchmark TOKYO
  • CATEGORY: BRANDING, ART DIRECTION, GRAPHIC, LOGO, PACKAGE, DISPLAY, WEB
  • YEAR: 2025
SPEAKER
  • 細野 隆博Dynamite Brothers Syndicate ART DIRECTOR
  • 足立 大昂Dynamite Brothers Syndicate DESIGNER
  • 高橋 梢Dynamite Brothers Syndicate PROJECT MANAGER
  • 中村 伸也parkproject.inc 代表

これからのカフェは、線や面より「点」

Q プロジェクトが始まる前にカフェをリサーチしたと聞きました。

細野:そうですね。渋谷から清澄白河、浅草橋、あとは学芸大学、高円寺と回りました。有名なロースタリーから洒落てる小さな店まで。

足立:プロジェクトが始まった後も常にアンテナを張ってたから、トータルで30ヵ所近くは行ってるんじゃないですか。

Q その中でも印象に残っている店は?

細野:いくつかありますけど、たとえば清澄白河のKOFFEE MAMEYA Kakeruはすごかったですね。カウンターに白衣姿のバリスタがいるんですけど、その人が味の好みとかお湯の温度をヒアリングして、チャートを見せながらコーヒー豆をおすすめしてくれるんです。そうやって買うのはちょっと面白いなと思いましたね。

中村:ああ、ワインと同じような売り方なんだね。

高橋:その場で飲めるの?

足立:奥のカフェは完全予約制だったから、豆だけ買って帰ってきました(笑)。

細野:あとは同じ清澄白河のAllpress Espresso。天井まであるデカい焙煎機が特徴的です。

中村:そういう店、増えてきたよね。目黒通り沿いの神乃珈琲も工場みたいな焙煎機があるよ。

細野:そこも工場みたいな外観で、店内では焙煎を見ながらその周りで飲めるようになってました。ほかにも、馬喰町のイーグルビルっていう、街のシンボルみたいなレトロな建物にあるBridge COFFEE & ICECREAM。ここは雰囲気がかっこよかったですね。そもそもコーヒー好きだから、リサーチにかこつけていろんな店に行ってます(笑)。

中村:そういうの大事だよね。ほんとに。

Q 工場のような空間で焙煎を見ながら飲むようなスタイルは流行っているのでしょうか?

中村:流行ってるっていうより、みんな個性を出したがってるのかな?

細野:工場みたいなカフェもあれば、ラボみたいなカフェもあったり。

足立:もう少しカルチャーっぽい店もありますよね?

高橋:そういうマシンとかコーヒーに詳しい人がいる場所は、比較的玄人好みなのかな。でも、中目黒のスタバのロースタリーとか、あそこまでいくとエンターテイメントに近いですよね。「その場所に行きたい」っていう感覚の。一方で、もっと気軽に日々行けるような店もありますし、ほんとにいろんなカフェがある。

中村:ただ、みんな相当コーヒーに詳しくなってきてるね。求めるものがマニアックで、マニアックな店も増えてきてる。小さくてもマニアック。「どういう焙煎してるか」とか「ナチュラルかウォッシュドか」とか聞くお客さんはもう普通にいるからね。

高橋:へえ!初めてのお客さんでもそういうこと聞かれるんですね。

中村:聞かれると僕らは嬉しいね。だから、このbenchmark TOKYOもナチュラルとウォッシュドの両方用意してるんだよね。それと流行で言うと、いろんなマシンや豆が輸入されてるから、カフェを開業したい若い人も昔より増えてると思う。「スタバ出身です」みたいに。

高橋:独立して小さなお店でやっていきたい人もいらっしゃるんでしょうね。

Q これからはどんなカフェが求められると思いますか?

高橋:最近、お酒を飲む人が減ってるじゃないですか。私もあんまり飲まないですけど、ご飯食べ終わって2軒目にバーに行くよりカフェに行きたい感覚ってあると思います。ちょうどいい感じのカフェは、場所として求められてる気がしますね。

細野:バーに行っちゃうと、いろんな悩みとか生まれちゃいますよね(笑)。

中村:だから、benchmark TOKYOの「スタンド以上カフェ未満」っていうコンセプト、いいなと思ったんですよ。この前も接客してたら、サポーターが「サッカーの応援で来ました。行ってきます!勝ってきます!」って話してたんですけど、この場所って線でも面でもなく「点」で、そんなに長居しないから逆に悩みを話す時間もなくて前向きだなと思って。もちろん長居できる「面」のカフェもあっていいと思うけど、ちょっと立ち寄っておいしいコーヒーを飲みたい場所って必要なんじゃないかな。

細野:さくっと買って移動中に飲むぐらいの気軽さですよね。

店構えから商品開発まで、こだわりの原動力とは

Q 無事にオープンできた要因として何が大きかったと思いますか?

足立:俺も細野さんも、前のめりだったのが成功につながったのかなという気はしてます。それは、中村さんが「ここは足立さんの店、細野さんの店、高橋さんの店」って言ってくれたからなんですけど、すごく響きましたね。「じゃあ俺の店なら、こういうこと頑張らなきゃ」って自分事としてのめり込めたし、背中を押してもらった気がします。そういうマインドにしてくれる人がいるのはすごくありがたいし、これは俺が作ったものだって誇りを持つことでクオリティが上がるんだって気づきました。

中村:このbenchmark TOKYOは「オーナーの店」じゃなくて、「関わった人みんなが自分の店と言える店」っていうのが、オーナーの想いだったんです。だから、足立さんは足立さんの店だと思ってるし、僕は僕の店だと思ってるけど、周りから見たら誰の店かわからない。その得体の知れない感が面白いなと思いますね。僕も店を営業してるけど、僕の店はいかにも僕の店という感じになる。でも今回はそうじゃない。自由度はすごくあったけど、逆にそこが難しかったかもしれないですね。あんまり自分が出ちゃうのはダメだから。

細野:オーナーみずからそういうふうに言ってくれるのは大きかったですよ。そのおかげで、ADもデザイナーもプロデューサーもPMも、それぞれ立場や世代が違っても、オーナーとフラットにアイデアを出せたり意見交換できましたから。あと、名前とロゴが決まった段階で店に合うBGMのプレイリストを作って、皆で共有しましたよね。それも、同じ方向性を目指す指標がありつつ、一人ひとりが自由にアイデアは出せて、やりやすい場づくりになっていたなと。

高橋:店をイチから作ったっていう意味で、デザインはどういうところがポイントだったのかな?

細野:これは店作りに限らずですけど、何かをデザインするときは、印象に残るシンボル的なものが必要だと思ってるんですね。たとえばWebなら、ブラウザを通しても印象に残る何かがあって、見た人がどんなサイトって言えることです。中村さんもおっしゃってましたけど、リサーチした店にはいろんな個性があって、焙煎にこだわってるソフトの個性もあるし、単純に古い建物を生かしてるハードの個性もありました。そういう個性だったりシンボルはやっぱり必要で、benchmark TOKYOでは暖簾がその役目を果たしてると思います。2つの暖簾、それぞれ4mあるスチールの支柱にかけられていて、毎朝2人がかりで設置してくれてるんですけど、そうするだけの効果はあるはずです。

足立:どんな店?って聞かれたら「暖簾があるコーヒースタンド」って答えられますからね。





Q 反対に大変だったことは?

中村:正直、物件探しはめちゃめちゃ苦労しました(笑)。これは本当に出会いでしかないから。

高橋:ほかのエリアも狙ってましたけど、結果的に千駄ヶ谷で良かったですね。

細野:個人的にはホープ軒の隣っていうのも面白いなと。

中村:最初、え?って思ったけど、細野さんは前向きだったね。

高橋:私の場合、ブランディングの一環で店舗のオープンをお手伝いする経験はあったんですけど、場所探しの進捗を共有するところから関わったのは新鮮でしたね。

細野:この場所に決まったときにまだ前のお店が入ったんですけど、見に来ましたよね?

高橋:そうそう。それで場所が決まってからいろいろシミュレーションしたのは大変だったけど、すごく大事だったなと思います。「この場所に合うものって何だろう?」とか「ここにどういう人が来るんだろう?」とか「このお店は締めることになっちゃったけど何が難しかったんだろう?」とか「このお店ではできなかったことをbenchmark TOKYOではうまく生かさなきゃいけない」とか。



Q 今回はメニューの選定や商品開発にも関わったそうですね?

中村:たとえばクッキーで言うと、いろんなお店のものを食べて、神戸のブーランジェリーBienvenueに決めたね。

細野:最初のサンプルで和三盆とかチョコとかいろいろ持ってきてくれたときに、甘くないタイプもおいしくて、それを元に塩加減とか硬さとかリクエストして少しずつ改良してもらいました。

足立:自分たちの感覚を基準にしましたけど、最終的には店に似合ってる味や食感を選びましたね。

細野:結果論ですけど、塩味も硬さも人に説明しやすいし、ギフトで贈った人にコメントされやすいんですよね。そういう特徴があると伝わりやすいのは、さっきの暖簾の話と同じです。デザインも商品開発も自分の中ではあまりセパレートしていなくて、延長線上にあると思ってます。商品開発もさっきの話じゃないですけど、自分の店と思えることがモチベーションになってたかもしれないですね。

スタンド以上カフェ未満だから拡がる可能性

Q 今後のbenchmark TOKYOの活動について教えてください。

中村:benchmark TOKYOの名前に、じつはカフェって付いてないんですよね。それを逆に面白みと考えるなら、この「点」に何をプラスするかはものすごく自由だなと思ってます。「◯◯とbenchmark TOKYO」の◯◯はたくさんあって、カフェという括りを持ちつつも「アートとbenchmark TOKYO」かもしれないし「ラーメンとbenchmark TOKYO」かもしれない。「点」だから、四方八方どこにでも行ける感じであってほしいなっていう望みはありますね。

足立:ブランドってことですよね。benchmark TOKYOという一つの価値を持ったブランドは、何でもできる状態ですよね。

高橋:今ってオンラインでできることが増えて、リアルの場の必要性が昔より減ってきたかもしれないですけど、それでもリアルな場所があることで、さっきの中村さんのお話みたいに国立の試合直前の人が来てくれるとか近所の人が来てくれるとか、体感的にわかることがある気がしますね。ストアみたいに、カフェとは別のアイテムを置くこともありますかね?

中村:うん。実験の場になるかもしれない。この場所がフィルターになって、ここを通してアウトプットできるものはなんだろう、何が売れるんだろうとか、何が面白いんだろうって考えたり。そういう意味でも「目線が上がる、街角の新しい起点。」なのかもね。

細野:それを見越して、Webサイトはいろいろ増えてもいいような拡張性のあるデザインにしてますよ!





SPEAKER

細野 隆博

Dynamite Brothers Syndicate ART DIRECTOR

足立 大昂

Dynamite Brothers Syndicate DESIGNER

高橋 梢

Dynamite Brothers Syndicate PROJECT MANAGER

中村 伸也

parkproject.inc 代表

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