AKI no SHIMA no MI
広島発D2Cオリーブブランド「安芸の島の実(AKI no SHIMA no MI)」。私たちは商品開発からロゴマークやパッケージのデザイン、ECサイト開発までリブランディングを一手に担いました。その舞台裏にあったのは、企業との地道な関係づくり、年間の目標や中長期的な事業計画の共有などさまざまな取り組み。そうした活動での発見を、プロジェクトメンバーが明かします。
Q. そもそも、どういう経緯でオファーを受けたのでしょうか?
植村:オリーブ事業は、海運業を営むリベラグループの一事業で、はじめはグループの社長からお話をいただきました。でも、実際にオリーブオイルづくりをしているのは山本倶楽部というグループ会社で、つまり、安芸の島の実はその人たちのブランドなんですよね。だから、まずその人たちに会うためオリーブオイルづくりの現場、広島に向かいました。僕らが何のためにやってきて、どうしていきたいのかを伝えて、東京から来たおかしな社名のデザイン会社が好き勝手やっている印象にならないように気をつけました。
井上:収穫も一緒に体験しました。その時点で、現場の臨場感を伝える素材が足りなかったので、収穫のタイミングでロケハンして、今後アウトプットしていくために必要だと思われる素材撮影も同時に行いました。
Q. 現地では具体的にはどんな体験を?
植村:収穫から選果、搾油まで体験しました。安芸の島の実は品質を担保するため、手摘みを採用しているんですが、その手摘みが想像以上に大変でした(笑)。
秋山:ひたすら摘んでカゴに入れていくんですが、そろそろ今日の目標の収穫量をクリアしたかと思って計量しても全然足りないんですよね。
井上:最初は楽しくてしゃべりながら作業していたんですけど、途中から皆、黙り込んで必死に作業していましたよね(笑)。それでも、手摘みはやっぱり推しのポイントだと思っていたので、しっかりチェックしました。
Q. 現地での体験を通してどんなことがわかりましたか?
植村:安芸の島の実は、スーパーで売られている一般的なオリーブオイルに比べて高額なんですが、その価値が、収穫を体験することで紐解かれたと思います。
秋山:オリーブの栽培はゾウムシという害虫が天敵で、その害虫にやられないためには日々の管理を徹底しなければいけないんです。草取りしたり、手袋して丁寧に収穫したり、細かく手をかけないと育たないし、そうやってもオリーブの実が小さいことも多くて、とても地道で根気のいる農作業なんです。
井上:そういう栽培の工程や収穫の苦労を知ると、確かに高額になるなと納得しました。高いのか?安いのか?適正価格の尺度が狂わされる感じもしましたね。
石塚:リニューアル前のWEBサイトは、失礼ですが正直、高額なオリーブオイルにはあまり見えませんでした。でも、丁寧に作っているという事実が実際にあって、本来持っている価値と見た目の印象が釣り合っていないように思いました。
井上:収穫を体験してみると、やはり農業ありきのブランドで、東京から見る安芸の島の実と違いがあるのを実感しました。そういう方々をどうやってプロジェクトに巻き込むか、どうやって一緒にリブランディングの仕事をしていくべきか悩みました。
Q. その解決策は?
井上:ブランドの未来を想像してもらうには、これから我々がやろうとしていること、たとえばパッケージやロゴのアイデアをビジュアルで見ていただくのが一番いいと考えて、ブランドブックやムービーなどのアウトプットを用意しました。それで皆さんのイメージが膨らんで、ゴールイメージを共有できたと思います。
植村:それから、生産から加工、管理まですべてのメンバーが参加するワークショップも定例で行いました。そうやって足並みを揃えて、想いやビジョンを共有するのは大事です。今回は事前に現地で社内の人間関係を把握していたので、必然的にキーパーソンや効果的なアプローチ方法を知ることができて、ファシリテーターとして話を回す際に役に立ちましたね。
秋山:一人ひとりに意見を聞いてみると、価値のあることを自分たちがやっている意識があまりなくて、当たり前のこととして取り組んでいるという印象がありました。手摘みも、生産チームにとっては当たり前だったんですよね。でも、立場の垣根を越えて話し合うことで、「自分たちのやっていることは価値があるんだ」と皆さんが認識できたのは良か ったと思います。
石塚:確かに、第三者でありながら内情も知っているという、その立場だから見える部分はあると思います。現地で体験したり、ワークショップで声を集めたりして、ブランドの3つの価値にたどり着きました。1つ目の「瀬戸内」は、オリーブの栽培に適している気候。2つ目の「風味」は、オリーブの国際コンテストで1位を獲得していること。最後の「こだわり」は、イタリアの技術と日本人の丁寧な手仕事。つまり安芸の島の実は〝本物〟のオリーブオイルだと。それをもとに「モダン瀬戸内」というコンセプトを設定しました。
井上:これまでの安芸の島の実を承継しながら、よりシンプルでモダンな印象なのが、モダン瀬戸内です。国際的コンテストで受賞したブランドらしく、余計な装飾をなくした堂々とした佇まいで、世界一を獲得した風味をストレートに伝えようと考えました。
Q. オリーブオイル=瀬戸内という印象はすでに世間に浸透していますが、
いわゆる既存の「瀬戸内」をウリにしたコンセプトではないんですね?
井上:そこは価格に見合う価値、適正価値の話が関係すると思います。その値段なりの見え方がありますし、購買層やギフト用途なども加味すると、従来の見せ方を変える必要がありました。全国展開を視野に入れていることもあって、洗練さをプラスして、道の駅で売られているような地方色の強いオリーブオイルと差別化するのは必須だと考えました。
植村:グループの社長は最終的に都内に路面店を出したいという考えをお持ちなので、それは大きいと思います。ローカルらしい価値から一歩脱却しないと、高品質・高価格帯のオリーブオイルを全国にリーチさせるのは難しいでしょう。事業をスケールア ップさせていく意味で、モダン瀬戸内に決めたのは一つの分岐点だったと思います。
Q. リブランディング後の目標を教えてください。
植村:事業を大きくする=売上を大きくする、つまり生産量を上げることになりますが、その前段階として、生産したものをすべて売り切らないとそのステージにいけないんですよね。だから、収穫したものを売り切るというのが当面の目標になりました。そのためには今までやっていなかった仕掛けが必要でした。
石塚:安芸の島の実には、江田島オリーブファクトリーというレストラン併設のアンテナショップがあります。呉市から車で 20〜30分の海沿いにあって、いつも賑わっています。でも販売施策が十分ではなかったので、まずはそこを訪れる人に買っていただくことから始めようと、キャンペーンを実施しました。
植村:結果、リブランディング前後の1ヵ月で、ECの売上は143%UP、会員数は191%UPしました。関わっている以上、答えを出す必要があったので、会員登録という見える形で結果を出せたのは良かったと思います。あの体験から、新しい商品を作ったり新しい挑戦をしたりする風土が少しできた気がします。
井上:売り切る施策の一つとして、新商品も提案しましたね。「搾りたてボトル」です。オリーブオイルは新鮮であればあるほど価値があるので、産地直送の文脈で売り出すアイデアです。本来オリーブオイルには酸化を防ぐため黒い遮光瓶を採用しますが、「搾りたて」の場合は産地直送のシズル感を出すため、あえて透明な瓶を使って、搾った直後のグリーンの色を強調しました。ラベルではなく手書きのタグを使うことでも産地直送感を強調しました。日付とナンバリングを入れることで希少性を感じさせて、価格に対する納得感も醸成できたと思っています。
石塚:キャンペーンで会員が増えたり、新商品でラインナップが増えたりして、ただ単にリブランディング、リニューアルしただけでなく、ブランドがアクティブになっていきましたよね。
秋山:それは、ECサイトを再構築して、運用にも関わっていることが大きいと思います。施策や新商品の効果を数字で共有しながら、山本倶楽部の方々が自分たちで動かしていけるように並走しています。一方通行ではなく、並走するのは、ブランドをアクティブにするうえで大事なことかもしれませんね。
Q. このプロジェクトでのポイントはどんなことですか
植村:デザインは抽象的なゴールが多く、作って終わりになることが多いですよね。でも、このプロジェクトの場合、来年は今年獲れた実の価値は下がります。こういう商材だから、売りきらなきゃいけないという意味の大きさと向き合った気がします。獲れたものを売りきるという具体的な目的がある中で、デザインした後の向き合い方は変わりましたね。
井上:現地で話を聞いたことが自分の中でとても大きかったですね。安芸の島の実を大切にしたいという現地の方の想いとか、オリーブに対する深い知識やこだわりとか、やっぱり直接聞かなければ得ることができなかったと思っています。普段の自分には東京のアートディレクターの視点しかなくて、現地で365日農作業に向き合っている人の視点とは全然違うんですよね。その発見はありました。
石塚:最初は価格が高すぎるのでは?と思っていました。でも、話し合いを重ねていくうちに、高いなりの理由というか価値があって、それを全員が共有したり発信したりできていないのが課題なのでは、という意見が上がってきました。なるほど、そういう視点があるかと思いましたね。適正と思える価値伝われば、そのぶん売れる可能性があるかもしれないという考え方は、今後いろいろなブランディングにも生かしていけそうです。
秋山:ただロゴやパッケージをリニューアルして納品して終わりというワークではなく、経過を追いながら常に新しい提案をくり返していく。そうやって、数字を気にしながら、毎年くり返していく中で、徐々に規模を大きくしていくという視点というか取り組みができたというのが、自分にとって新鮮だったと思います。
安芸の島の実サイト
https://www.hiroshima-olive.jp
植村 徹
PRODUCER / ACCOUNT PLANNER
井上 宏樹
ART DIRECTOR
石塚 勢二
COPYWRITER
秋山 悠
PROJECT MANAGER