Story

KiKiYOKOCHO

百貨店の売り場づくり。神髄は編集力にあり。

2018年に札幌大丸店、2019年には松坂屋名古屋店に新ゾーンが誕生しました。さまざまなブランドのコスメや雑貨、フードがひとつのフロアに一堂に会し、それぞれの店舗で自由にお試しができる、まるで横丁のような売り場。百貨店らしからぬそんな売り場がいったいどのようにして誕生したのか。キーパーソンである2人がプロジェクトの経緯を振り返ります。

Project Info.
  • CLIENT: KiKiYOKOCHO
  • CATEGORY: BRANDING LOGO GRAPHIC
  • YEAR: 2018
SPEAKER
  • 野口孝仁PRESIDENT & CEO / CREATIVE DIRECTOR
  • 清水宏大丸松坂屋百貨店 本社 営業本部 事業推進室新規事業推進・ブランド開発事業部長(2018年現在)

部門を横断した巨大プロジェクトが始動

野口:清水さんは、百貨店の化粧部門で30年以上お仕事をされている、とても女子力の高い方です(笑)。そんな清水さんと一緒になってつくったのが、札幌大丸店、松坂屋名古屋店にある「KiKiYOKOCHO」というフロアでした。


清水:野口さんとの出会いは、とある取引先の社長に「面白い人がいるから、会ってみない?」と持ちかけられたのがきっかけでした。第一印象は、いろいろなものに興味を持って「なんで、なんで」と質問してくる子供みたいな「純粋な人」。話していると、野口さんのものの見方や考え方が、自分とは全く違うことに気づきました。


野口:以前に、「百貨店の売り上げは、旗艦店はいいけど地方は厳しい」と耳にしたことがあって、清水さんに「地方は土地面積が広いのに、どうして縦にデパートを建てるの?商店街みたいに、横に長い百貨店があっても面白いんじゃない?」と質問したんです。すると、「その発想はいいね」と面白がってくれて。清水さんがKiKiYOCOCHOの骨組みとなる考え方をつくりました。最初は「きれい横丁」という、いまとは違う名前でした。


野口:以前に、「百貨店の売り上げは、旗艦店はいいけど地方は厳しい」と耳にしたことがあって、清水さんに「地方は土地面積が広いのに、どうして縦にデパートを建てるの?商店街みたいに、横に長い百貨店があっても面白いんじゃない?」と質問したんです。すると、「その発想はいいね」と面白がってくれて。清水さんがKiKiYOCOCHOの骨組みとなる考え方をつくりました。最初は「きれい横丁」という、いまとは違う名前でした。


野口:「面白そう!」と答えたら、「じゃあ、手伝ってくれない?」と言われて。軽い気持ちでOKしたんだけど、実際にふたを開けてみると、かなり巨大なプロジェクトでびっくりしました(笑)。


清水:百貨店はプロジェクトを進めるとき、食なら食、婦人服なら婦人服と、それぞれの部門に分かれて作業しますが、このプロジェクトでは私がファシリテーターとなって、すべての部門の人たちが集結したんです。


野口:上層部や売り場マネージャーも巻き込んで、毎週テレビ会議を開きましたよね。回数にすると全46回。会議の人数は平均20人ほどで最大30人くらい集まったこともありましたね。








[左から]
清水 宏:大丸松坂屋百貨店 本社 営業本部 事業推進室新規事業推進・ブランド開発事業部長(2018年現在)
野口孝仁:PRESIDENT & CEO / CREATIVE DIRECTOR

※本ページで表記されている、役職・肩書き等は取材当時のものです。

アイデアをかたちにするのが難しい

野口:先ほども言ったように、お話しをいただいた時点でKiKiYOCOCHOの骨組みはほぼ完成していました。私にできることは「百貨店に詳しくないこその気づきポイント」をお伝えすることかなと。


清水:会議を円滑に進めるために、最初の会議で「ストライプ横丁」という案を持ってきてくださいましたね。


野口:どんな会社でもそうなんですが、最初の会議って大体しーんとしてしまうんですよ。だから絶対に採用されないであろう提案書を持っていく。あえて物議をかもすような案を持っていくことで、「これは嫌だ」、「もっとこうした方がいい」と言い合える空気をつくるようにしています。あとは、真面目な会議でつくった企画って、どうしても仕事っぽくて、お堅い感じになってしまうので、「自分が最近ワクワクした体験をプレゼンする」という宿題も出したりして、みんなのワクワクを丁寧に掘り下げました。これは1年弱という長い期間をいただいたのでできたことです。


清水:「どんなお客様に、どんなことをするのか」という最初の方向性を決めるのに2ヵ月くらいかかったかな。


野口:新しいペルソナもつくろうという話になったんですよね。それで女性に話を聞いていると、「メイクは面倒だけど、きれいでいたい」、「ケーキは食べたいけど、痩せたい」など複雑なことを言うと気づいたんです。そこから見えたのが「わがまま女子」というキーワードでした。


清水:このプロジェクトで一番助かったのは、野口さんが私の考えや気持ちを的確に表現してくれたことです。そしてそれを社内資料として使用できるようにしてくれたこと。私は、新しいことを考えるのが好きな人間ですが、それを言葉にしたり、ビジュアル化したりするのが本当に難しいと感じていました。でも、野口さんがキャッチーで的確な言葉にして、私たちの心を動かしてくれたおかげでみんなを説得することができました。


KiKiYOCOCHOの開発初期につくったプレゼン資料。顧客のリアルな特性を調査して「寄り道買い」の動線から滞在時間までを詳細に提案。これまでの「目的買い」と異なる新たなカスタマージャーニーを想定して店づくりを行った。

ショップ同士が助け合える売り場をつくる

野口: 私がとある商業ビルでスニーカーを見に行ったとき、「あなたには白のスニーカーが似合うけど、うちには置いていない。向かいのショップで買えばいいよ」と言われ信頼関係が芽生えました。百貨店にもそういうスタッフはいるのか尋ねたところ「ほとんどのスタッフは、隣近所の商品を知らない」と返ってきたんです。


清水:百貨店の売り場は、競争の場でしたから。ブランドごとに売り場がきっちり分かれているので、お客さんも商品を比較することができない。でも横丁や商店街の人たちって、隣近所のことをよく知っているんですよ。「その商品ならあの店にあるよ」とか「ラーメン食べたいなら、あの店に行けばいいよ」とか。百貨店にもそういった助け合いの空気があってもいいなと思ったんです。


野口:札幌店の店長がカンファレンスを開いてくれて、そこでは、それぞれのブランドが小さなショップを出店して、自社商品のプレゼンや、お試し企画をつくってくれました。KiKiYOCOCHOにまいた種に対して、店長やスタッフたちが自ら水をやってくれている、という感動がありましたね。


清水:プロジェクトの回を重ねるごとに自分の意見をどんどん出してくるようになりました。ネーミングを「きれい横丁」から「KiKiYOCOCHO」に変えたのも、女性陣からの提案でした。メンバーは、当時知らなかった売り場づくりのことや、他のカテゴリーの商品のことも勉強できたと思います。話し合うという風土もできました。
2019年3月には松坂屋名古屋店にもKiKiYOCOCHOをつくりましたが、札幌大丸店での経験が大きく反映されました。


野口:しっかりとローカライズされていましたよね。


清水:そうですね。名古屋の女性は、名古屋愛が強かった。「名古屋には何でも売っているし、車もあるし、生活水準も高い」と誇りを持っているので、キーワードも「わがまま女子」から「欲張り女子」に変えました。


野口:松坂屋名古屋店のフロアオープニングで一番驚いたのは、スタッフが主体になってつくった小さな本棚が各店舗に設置されていたことです。きちんと選書もされていて、彼らの思い入れが伝わってくるようでした。それを見たときに、「ローカライズの主体になるのは、やっぱり地元の子たちなんだ」と感じました。


清水:各店舗のスタッフは、月に1度KiKi会という集まりを開催しているんです。自分のおすすめのショップや、商品を発表し合うことで、親交を深めています。


野口:大丸札幌店も、松坂屋名古屋店も、横のつながりができましたよね。ショップ同士で合同ノベルティをつくったり、隣のショップの企画を手伝ったりすることも多いみたいで。そういうのを聞くと「ちゃんと機能している!」と思いました。


清水:売り場づくりで難しいことは、売り場をつくることではなく、継続させることなんです。フロアの来客数は3.5倍に拡大しましたが、これを維持し続けるのが本当に難しい。時代が変化するように、女性の気持ちも変化していく。それに合わせて、百貨店の売り場も変えていく必要がありますよね。


野口:うれしかったのは、札幌大丸店の方々に「いいオモチャをもらった」と言われたことでした。このコンセプトでこれからも遊んでいく、というのは、最高の褒め言葉です。


売り場を編集する時代

清水:野口さんは、自分ごととして考えてくれるし、責任を持ってアドバイスしてくれるんです。単なる理想論ではなく、その方法までしっかりと示してくれる。


野口:雑誌のデザイン会社である私たちに、売り場のコンセプトづくりを任せてくださったことは、感謝しています。それを呼び水にするように、コンサルの仕事も多く舞い込んでくるようになりました。


清水:売り場も編集の時代ですよね。百貨店のフロアはカテゴリーごとに区切られていて、隣近所のショップ同士に見えない壁がありましたが、KiKiYOCOCHOでは、カテゴリーに縛られない自由な配置ができて、ショップ同士のつながりもできました。


野口:最近はいろんなショップが、さまざまな商品を雑多に売るようになってきて、ショップ同士をどうつなげるかを考える必要性がでてきました。そしてその“つなげる”という行為こそが編集なんだと気づいたんです。それが私の経験と絶妙にマッチしているのかなと。いまはカテゴリーミックスの時代なので、食品や雑貨など雑多に置くだけで売り場が成立しています。けれども、ただ置けばいいというわけではなく、お客様に対して分かりやすい世界観、つまりコンセプトが必要です。KiKiYOCOCHOでは、大丸松坂屋の社員が一丸となってコンセプトづくりに取り組んだからこそ、唯一無二の世界観を作ることができました。そのお手伝いができたことを、誇らしく思っています。

「THINK EDIT」(野口孝仁/日経BP)より転載、一部改変。


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野口孝仁

PRESIDENT & CEO / CREATIVE DIRECTOR

清水宏

大丸松坂屋百貨店 本社 営業本部 事業推進室新規事業推進・ブランド開発事業部長(2018年現在)

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