Story

Owned Project

コロナ禍の学生生活が写真集になった理由とは?

2020年、新型コロナウィルスのパンデミックによって、私たちの生活は大きく変わりました。緊急事態宣言、外出自粛、マスク越しの“新しい日常”……特に学生たちは、たくさんの制約の中で、貴重な学生生活を送ることになりました。しかし、どんなに特殊な状況下であっても、青春時代は特別なもの。何気ない日々の中には輝く瞬間がきっとあったはずです。そんな気持ちから、開催されたのが、「#アオフォト2022」。全国の高校1年生〜3年生を対象に2022年12月23日から2023年1月31日にかけて開催されたフォトコンテストには、1,500件を超える高校生たちのそれぞれの「青春」をテーマにした写真が寄せられました。

 

今回、このフォトコンテストから生まれた写真集『#アオフォト2020-2022』の発売(2023年12月)を記念して、コンテストを企画・主催したCURBONの武井宏員さんと、ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケートの高橋梢、写真集の版元である⼩学館集英社プロダクションの澤田美里さんが、書籍化に込めた想いや制作秘話、今後の「#アオフォト」の可能性について語り合いました。

Project Info.
  • CLIENT: Owned Project
  • CATEGORY: PLANNING, ART DIRECTION, DESIGN
  • YEAR: 2023
SPEAKER
  • 武井 宏員写真家・株式会社CURBON CEO
  • 澤田 美里小学館集英社プロダクション (ShoPro)
    メディア事業本部 出版企画事業部 編集課所属
  • 高橋 梢ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート
    PROJECT MANAGER

フォトコンテスト「#アオフォト」が生まれたきっかけ


まず、フォトコンテスト「#アオフォト」がなぜ始まったのか、きっかけについて教えてください。

武井:以前、CURBONで学生を対象にしたプロジェクトを開催したとき、集まった写真がとても良くて、それをダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(以下DBS)の高橋さんにお見せしたことがあったんです。


高橋:ちょうど、新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた頃で、外出自粛など、いろんな想定外のことが増えていく中で、世の中的には、「この時代を過ごす学生は不憫だ」というような見方もあったと思うんです。でも、武井さんに見せていただいた学生たちの写真は、とてもみずみずしくて、楽しそうで…そこには、私たちの時代と何ら変わりない青春時代がありました。学生生活のメインイベントとも言えるような、運動会や文化祭なんかが軒並み中止になっていく中であっても、彼らは、今しかない特別な時間を過ごしている。その軌跡を残したいと思ったんです。そこで、CURBONさんと相談を重ね、全国の高校生を対象に、「青春」をテーマにしたフォトコンテスト「#アオフォト2022」を開催することが決まりました。

「#アオフォト2022」には、1,500件もの応募があったそうですね!

高橋:そうなんです。DBSとしては、こうしたフォトコンテストを開催するのは初めてのことだったので、短い応募期間だったにもかかわらず、たくさんの作品が寄せられたことには驚きましたし、純粋に嬉しい気持ちでいっぱいになりました。

武井:SNSでいつでも誰でも発信できる今の時代ではありますが、やはりフォロワーがたくさんいる人って、実際は一握りだと思うんです。今回の応募数を見て、「少しでも多くの人に自分の作品を見てもらいたい」という気持ちをすごく感じましたね。

寄せられた応募作品を見て、どんな感想を抱きましたか?

高橋:コンテストの審査には担当のアートディレクターと一緒に私も参加させていただきましたが、本当にどれも心揺さぶられるような素晴らしい作品ばかりで…自分の学生時代を、昨日のことのように思い出しました。

武井:いわゆる「青春写真」というと、大人のイメージによってつくり込まれているものをよく見かけるのですが、集まった作品はリアルで、本当の青春そのもの。だからこそ胸を打つんですよね。こんなにいい写真を撮る若者たちが、これからどんどん台頭してくるのだと思うと、写真家として活動している立場としても「やばいな」と思ってしまいました(笑)。

形として残すことに意味がある。書籍化への想い

今回、「#アオフォト」の書籍化を担当された編集者の澤田さんは、なぜこのフォトコンテストに注目されたのでしょうか? 

澤田:私の所属する出版社では、特にイラストや写真などのビジュアルブックに力を入れていまして、編集者は常に企画やアイデアを探しています。あるとき、「最近、青春写真が流行っているらしい」ということが編集会議で話題に上り、リサーチをする中で「#アオフォト2022」の存在を知ったんです。「コロナ禍の青春を写す」というコンセプトに、とても共感しました。

「#アオフォト」を写真集という形で残すことに、どんな魅力・意味を感じたのでしょうか?

澤田: 2022年の年末、夏の甲子園で優勝した仙台育英の須江監督の言葉「青春って、すごく密なので」が流行語大賞特別賞に選ばれたとき、きっと多くの人がコロナ禍で過ごした学生たちに思いを馳せたと思います。私自身もそうでした。こういう特殊な3年間を過ごした高校生の日常を、この先も残る形として残すというのは、すごく意義のあることなんじゃないか、そう確信したんです。

武井:僕もそう感じます。おそらくこんなパンデミックは、もうないことだと思うんですよね。5年後10年後、それこそ「コロナ」という言葉が忘れられても、この写真集が、彼らの日常が、時代の記録として残るかもしれないと思うと、それって改めてすごいことだと思うんです。

作品の魅力をありのまま伝えたい。制作の苦労とこだわり

写真集制作にあたり最も大切にされたのはどんなことでしょうか?

澤田:コロナ禍だから青春が失われたとか、ゆがめられたとか、そういう印象を与えるものにはしないようにしたい、ということは全員の意見が一致していました。コロナ禍であっても青春そのものは全く傷つかない。それをすごく大事にしたいねと。

高橋:「#アオフォト」は、彼らの何でもない日常の集合体です。だから、作る側も、何かそこに特別な驚きとか、ドラマティックな抑揚をつける必要はなく、ただ、ありのままをありのままに伝えるということを大切に向き合いました。

DBSでは、写真集全体のデザインや構成を担当しました。写真の選定やページネーションなどで、こだわった点や苦労した点はありますか?

高橋:もともと自由応募形式で集まった写真を、一冊の写真集にするために選定するというのは、なかなか難しく、アートディレクターも初めは頭を抱えていました。何しろ、1枚1枚がすごくパーソナルで、思い入れの詰まったスペシャルな写真。どれも素晴らしい作品ばかりだったのですが、泣く泣く絞って最終的に120ページに収めることになりました。それでもできるだけ多くの写真を紹介したかったのは、いろんな形の青春があれば、読者は、自分の経験を反映できるような作品が見つけられるかもしれない。そうすればより感情移入して楽しめると思ったからです。


澤田:実は制作も終わりに差し掛かろうとしていた頃、構成を大きく変えたんですよね。というのも、当初予定のなかった「言葉」を入れることにしたからなんです。今回、写真集を作るにあたり、作者の皆さんに改めて「#アオフォト」に関して何か想いがあればコメントを寄せてほしいとお願いしたところ、想像以上にたくさん集まり、そのどれもが当事者でしか語り得ない、胸に迫るものばかり。これは写真集に入れないわけにはいかないと思ったんです。DBSさんにはご迷惑をかけてしまったのですが、最終的に言葉によって写真が際立つような素晴らしい仕上がりにしてくださいました。

武井:写真に言葉を添えるというのは、実はすごく難しいことだと思うんです。その写真を言葉が上書きしてしまったり、作者が意図してないような受け取られ方をしてしまったりすることも多々あります。でも、この写真集はむしろ写真と言葉に相乗効果が生まれていて、世界観が広がっている。本当によくできているなと改めて感じます。

写真家でもある武井さんが、改めて写真集「#アオフォト2020-2022」をご覧になって感じることはありますか?

武井:写真って、技術力がついてくると、どうしてもきれいに撮ろうとか、うまく撮ろうということを先に考えてしまうのですが、彼らの写真は、そうしたことを一切考えていないんですよね。そういう写真を見ると、「写欲」が湧いてきます。

高橋:「写欲」って、写真を撮りたい欲求ということですか? それが「#アオフォト」で刺激されたのは面白いですね。

武井:写真家は皆そうだと思うのですが、モチベーションを保って撮り続けるって、すごく難しいんですよ。だから、刺激を与えることはすごく重要で。僕にとっては、ありのまま、思いのまま撮っている彼らの写真がすごくいい刺激になりました。

各地の書店さんからも反響が届いていると聞きました。

澤田:そうなんです。やっぱりコロナ禍でつらい思いをされた街の書店さんも多いですし、日々、参考書や漫画を買いにくる学生たちの姿を見てきたこともあって、彼らに思いを馳せる部分は大きかったのではないかと思います。


武井:嬉しいですね。この写真集をぜひ多くの人に届けたいという気持ちは、僕たちだけのものじゃないんだなと感じます。

新たな写真表現のムーブメントを期待。「#アオフォト」の可能性

この写真集がどんな人の元へ届き、どのようなことを感じてほしいと思いますか?

澤田:いつも本を作るときは、読者ターゲットをしっかり考えるんですが、この写真集の場合は、高校時代を送った人は全て対象だと思っていて。特に、一番刺さるのは30代あたりの、大人になって、高校時代を忘れてきてしまっている人たちではないでしょうか。見るとつい泣けてしまう、という人は多いと思います。

武井:あとはやっぱり、青春ど真ん中の高校生ですよね。僕は、純粋に「#アオフォト」をきっかけに写真が好きな若い人が増えればいいと思っていて。AIなんかもどんどん進んでいる中で、「#アオフォト」は、写真の良さを感じられるというか、原点に戻るような企画でもあるなと感じています。これをきっかけに多くの若い人たちに、写真の良さが広がっていくと嬉しいです。

コンテストから写真集へという広がりについて、「#アオフォト」の可能性をどのように感じていらっしゃいますか?

澤田:世の中には、いろんな写真集がありますが、「#アオフォト2020-2022」は、このリアルさが一番の魅力だと思うんです。写真のプロフェッショナルではない学生たちの写真が、こんなにも多くの人の心に刺さるということを知って、可能性をものすごく感じています。また、SNSで手軽に発信できる時代だからこそ、こうした形で自分の作品を世の中に残すことができるという経験が、学生の自信とか、将来への可能性を見出すきっかけにもなったらいいなと思っています。

武井:今回応募いただいた作品だけでなく、いい写真は他にもまだまだたくさんあると思っているんです。そうした作品を残していける場所、感動を生み出せる方法として、一つの基盤ができたので、これをベースに、いろんな青春の形を伝える企画が今後も考えられるのではないでしょうか。YouTubeやTikTokなど、いろんなカルチャーがミックスされても面白いかもしれません。

高橋:私達は普段コマーシャルワークに携わらせていただいているからこそかもしれませんが、学生たちの自由な表現に強く心を打たれました。こんなふうに、学生が自分達の手で、思い出を残せるようになっている今、たとえば卒業アルバムのあり方だって変わってもいいと思うんです。私たち大人は関係なく、学生たちの手によって可能性はどんどん広がっていく可能性がありますね。今後、「#アオフォト」が高校生のムーブメントとして1人歩きしていってくれることが理想ですね。

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SPEAKER

武井 宏員

写真家・株式会社CURBON CEO

澤田 美里

小学館集英社プロダクション (ShoPro)
メディア事業本部 出版企画事業部 編集課所属

高橋 梢

ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート
PROJECT MANAGER

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