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なぜ「牛タン」はオンラインギフトで人気なのか?

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2025.7.3

「焼肉屋のスターター」から「ギフト市場の主役」へ、牛タンの華麗なる転身

お世話になった方へ、大切な人へ、特別な想いを届けるオンラインギフト。スマートフォン一つで気軽に贈れる手軽さから、その市場は年々拡大を続けています。

株式会社矢野経済研究所の調査によると、日本のeギフト市場規模は2023年度には3,845億円に達し、2027年度には5,000億円を超える勢いで成長すると予測されています。そんな成長市場の中で、今ひときわ強い輝きを放っているのが、何を隠そう「牛タン」です。LINEが発表している2023年度配送ギフト人気商品ランキングでは、グルメ部門で「牛タン」が全体1位、男女ともにベスト10入りしています。さらに、さとふる2024年人気お礼品ランキングでも2位に君臨しています。

ではなぜ、数あるグルメギフトの中で、これほどまでに牛タンが選ばれるのでしょうか? その答えの鍵は、私たちが焼肉屋で無意識に行っている「まずタン塩から」という、あの習慣に隠されていました。

この記事では、焼肉屋での「スターター」という役割から、ギフト市場の「主役」へと華麗なる転身を遂げた牛タンの戦略、そしてその根底に流れる本質的な価値を紐解きながら、絶大な人気の秘密に迫ります。

人気の源流 — 「焼肉屋のスターター」という特別なポジション

まず、牛タンがこれほどまでに「ごちそう」として私たちの心に深く刻まれている理由、その源流を探ります。舞台は、炭火の香ばしい匂いと人々の活気が満ちる焼肉屋です。

立ち上る煙の中、私たちはなぜ、儀式のように「まずタン塩」と口にするのでしょう? あるグルメメディアの調査では、焼肉で最初に注文するメニューとして実に76.9%が「タン」と回答し、2位の「カルビ」(6.2%)に圧倒的な差をつけています。「タン塩スタート」は、もはや国民的コンセンサスなのです。

その理由は、単に「さっぱりしているから」「網が汚れないから」という合理性を超えた、もっと本質的な役割にあります。それは、「牛タンがこれから始まる、特別な食体験のスイッチを入れる」という、極めて重要な合図の機能を担っているからです。

レモンを絞り、熱々のタンを頬張るあの瞬間、私たちの脳は「さあ、ごちそうの始まりだ」と認識し、高揚感に包まれます。それは、いきなり濃厚なタレの味で舌を疲れさせることなく、これから続く肉のパレードを、最高のコンディションで迎えるための、洗練されたプロローグなのです。

そう、焼肉屋における牛タンは、自らが4番打者として豪快な一発を放つのではなく、試合全体の流れを決定づけ、最高の勝利(食事体験)へと導く「最強の一番打者」なのです。この「最高のスタート」という特別な体験こそが、牛タンに揺るぎないブランドイメージを与え、ギフト市場での人気の基盤となっています。これはマーケティングの文脈で言えば、競合がひしめく中軸の座ではなく、『スターター』という唯一無二の役割を確立した、見事なポジショニング戦略と言えるでしょう。

 

人気の飛躍 — 「とりあえず」の牛タンが、「とっておき」の贈り物になった

焼肉屋で最強の一番打者として絶対の地位を築いた牛タンは、オンラインギフトという新たなフィールドで、更なる転身を遂げます。この華麗なるピボット戦略によって、牛タンは家庭の食卓における「主役・試合を決める四番バッター」としての地位も確立しました。

では、どうやってスターターを主役にしたのか。 その答えが、「厚切り牛タン」というプロダクト・イノベーション(製品革新)です。

 

もしオンラインで売られているのが、焼肉屋と同じ、一番打者としての役割に徹したペラペラの薄切りタンだったら、決して「主役」にはなり得なかったでしょう。しかし、ギフトとして届く牛タンは違います。箱の蓋をそっと開けた瞬間に現れる、見事なサシと、職人の手で丁寧にスリットが入れられたその「厚み」。誰もが思わず息をのむほどの迫力が、そこにはあります。じっくりと火を通していく厚切り牛タンは、表面はカリッと香ばしく、分厚い肉の中に閉じ込められた旨味が、じゅわっと溢れ出す。一口噛み締めれば、薄切りタンとは全く違う、むっちりとした弾力と、とろけるような柔らかさが口いっぱいに広がります。

それは、前菜ではなく、炊き立ての白米を片手に、心して向き合うべき、紛れもない「主役」の味わい。焼肉屋での「最高のスタート」という体験価値を、家庭では「最高のメインディッシュ」として価値を再構築することに、牛タンは見事に成功したのです。

人気の本質 — 牛タンがもたらす「幸福な関係性」

さて、ここからが本題です。スターターと主役。異なるシーンで愛される牛タンですが、その根底には、私たちがまだ気づいていない共通の役割が隠されています。 それは、人と人との関係性を円滑にする「コミュニケーションツール」としての役割です。

 

焼肉屋の「社会的潤滑油」

思い出してみてください。「とりあえずタン塩でいい?」という、あの何気ない一言を。この言葉には、実は驚くほど高度なコミュニケーション機能が備わっています。

  • 合意形成の円滑化: 誰もが好きな「タン塩」を提案することで、最初の注文で生まれる微妙な時間を回避し、スムーズに場の総意を取りまとめることができます。

  • 緊張緩和の合図:「さあ、始めよう!」というポジティブな合図となり、まだ少し硬い場の空気を和ませ、会話のきっかけを生み出します。

  • 一体感の醸成: 全員で同じものを最初に食べることで、仲間意識や一体感が生まれ、楽しい食事のスタートを切ることができます。

このように、牛タンは単なる肉ではなく、場の調和を生み出す「社会的潤滑油」として、人間関係に確実に貢献しているのです。

 

ギフト市場の「肉の厚みがものを言う、思いを運ぶメッセンジャー」

この役割は、オンラインギフトの世界でさらにその真価を発揮します。「本当に喜んでほしい」という想いがこもったギフト選びは難しいものです。しかし牛タンギフトは、言葉では伝えきれない「ありがとう」「おめでとう」という温かい気持ちを、誰もが知る「ごちそう」の力で雄弁に物語ります。

センスが問われる品々と違い、相手の好みを外す心配が少なく、それでいて食卓に「ちょうど良い非日常感」という確かな喜びを届けられる。この“失敗しない安心感”と”ありきたりではない特別感”の絶妙なバランスが、送り主の繊細な気遣いを伝える、最高のメッセンジャーとなるのです。

受け取った側は、その豪華な見た目と、誰もが知る「ごちそう」としての価値から、送り主の深い想いを直感的に理解します。特に「仙台名物」というブランドイメージは絶大で、さらに肉の厚みが加われば、「私のために、こんなに良いものを選んでくれたんだ」という感動は、どんな言葉よりも強く心に響きます。

そして、その牛タンを家族と囲むとき、食卓には笑顔が生まれ、送り主の話題で花が咲くでしょう。牛タンは、離れた場所にいる人々の心と心をつなぎ、ポジティブなコミュニケーションを生み出す触媒となるのです。

 

牛タンは、ただの牛の部位ではなく「カルチャー」だ

私たちが焼肉屋で「まず牛タン」と口にするのは、それが合理的だからという理由だけではありません。それは、「これから始まる楽しい時間の合図」であり、「その場にいる人々と円滑な関係を築きたい」という、無意識の願いの表れなのです。

そして、オンラインギフトで牛タンが選ばれ続けるのも、その美味しさだけが理由ではありません。焼肉屋で私たちが感じる、あの「幸福な体験の始まり」をパッケージ化し、大切な人との「温かい関係性」を再確認するツールとして、これ以上ないほど機能するからです。

それは、それぞれの場所で、人々が本当に求めているものは何かを見極め、「記憶に残る体験」を演出し続けた、牛タンの知恵と戦略によるものなのです。

私たちにとって牛タンは、もはや単なる牛肉の一部位ではありません。 私たちの食体験を豊かにし、人と人との絆を深める、一つの「カルチャー」と言えるでしょう。

植村 徹

PRODUCER / PLANNER

クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。

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