玉川髙島屋S・C
2023年初夏、玉川髙島屋S・Cで1つのイベントが開催されました。その名は「あの人の夏支度」。二子玉川にゆかりのあるあこがれの人物から、気持ちよく夏を迎えるヒントを教わるという内容です。イベントの要、キャスティングはどのように進められたのか。販促のカギを握るディスプレイはどのようにデザインされたのか。その舞台裏をメンバーが語ります。
Q. 「あの人の夏支度」という企画はどういう経緯で生まれたのでしょうか?
井上:毎年秋から冬にかけて、来期の販売施策について玉川高島屋S・Cと打ち合わせを重ねているんですが、今回は依頼される前にこちらから自主提案しました。
Q. どんな提案だったのでしょうか?
井上:これからの玉川高島屋S・C流の寄り添い方を伝えました。
今、パーソナライズなサービスが次々と生まれて、個人の嗜好とか価値観に寄り添うことがこれまで以上に求められていますよね。そんな中、個人の嗜好に合わせるといいながら、ただ商品を並べて一方的な寄り添い方をしているショップも世の中にはあります。玉川高島屋S・C流の寄り添い方はそうではなくて、お客様自身が自らの価値観に向き合って信念をもって行動をする、そのきっかけになることだと提案しました。
秋山:その少し前に、「ショッピングセンターからライフスタイルセンターへ」というコンセプトで店内の一部をリニューアルしたのも関係しています。ライフスタイルセンターになるには、地域のお客様の価値観に合う寄り添い方が必要だと話しましたよね。
Q. 地域性というのはキーワードのようですね。
井上:その地域に住む方々の日常使いとして利用されている点が、同じ髙島屋S・Cでも日本橋や立川と違うところだと思います。ファッションだったり食事だったり、毎日の生活を楽しんでいるファミリーが三世代で来店されるという話も聞きます。
小島:じつは私、昔、近くに住んでいたんですけど、元住人として思い出すと、玉川高島屋S・Cは身近にある、地域性が一番の特徴の商業施設という印象でしたね。
秋山:二子玉川は「ニコタマダム」という言葉があるように、昔から独自の文化がある街です。でも、その言葉が生まれたのは20年以上も昔なんですよね。それ以来、文化がアップデートされていないので、デザインの力、編集の力でアップデートしましょうと企画を提案しました。
Q. その一つが「あの人の夏支度」ですね?
秋山:そうです。玉川高島屋S・Cが求める、新しい切り口と集客には応える内容だと思っていました。あとは実現性です。それで小島さんにオファーしました。小島さんは元大手セレクトショップのMD・バイヤーで、フリーランスとして店舗コンサルティングや自身のブランドのディレクションもしています。この企画では、ブランドの選定や、「あの人」のキャスティングをお願いしました。
Q. キャスティングするうえで特に注意したことを教えてください。
小島:玉川高島屋S・Cのターゲットに合っているのはもちろんですが、重要なのは、キャスティングされる側の方が、この企画に興味を持ってくれそうかということです。二子玉川にゆかりのある方なら興味を持ってくれるでしょうし、自分が依頼されていることに納得できれば、当事者意識を持って参加してもらえます。反対に「なぜ私がキャスティングされたんだろう?」と思われたら、断られる可能性は高くなります。
伊藤:それはどうやって見極めるんですか?
小島:SNSやインターネット、雑誌などでリサーチしますね。何に興味を持っているか、今までどんなお仕事をされているか。しっかりリサーチすると、提案の確度が上がってキャスティングの可能性が高まると思います。
SNSの場合、その方とつながりのある人物、同じ系統の人物もわかるので、ほかに候補として挙げたいときはそこまで調べます。雑誌やメディアにはいろんな人が集まるので、そこで調べることもありますね。
あとはやっぱりお客様に来てほしいので、あとはやっぱりお客様に来てほしいので、その方のファンやフォロワーが玉川高島屋S・Cのターゲットと重なることが大切です。
Q. 「夏支度」というコンセプトも、キャスティングの際に意識しましたか?
小島:そうですね。「夏支度」なら、ライフスタイル全般に興味があって暮らしが素敵な人がふさわしいと思いました。たとえば、料理家だけどそれ以外の暮らしも素敵だったり、インテリアスタイリストだけど、お茶や食にも興味があるとか。これがもし自分の専門分野しか語れない人なら、紹介できる商品は限られてしまいます。だから、幅広い分野に興味を持って語れそうな人、という点で人選しました。
井上:そうやって選んでもらったのが、料理家の渡辺有子さんと、インテリアスタイリストの大谷優依さんですね。こちらでイメージしていた人物像にかなり近いので、あとは引き受けてくれればいいなと思っていました。お二人に快諾していただいて本当に良かったです。
Q. 会期中はトークイベントも開催されました。反響はいかがでしたか?
小島:私がMCをして、セレクトされた商品を交えて、渡辺さんには夏におすすめの料理、大谷さんには夏を快適にするアイデアをうかがいました。30分くらいのミニトークですが、始まる前から席が埋まっていて、立ち見の人がいるほどお客様が集まりましたよ。
伊藤:私も当日、行ったんですけど、こんなに見てくれる人がいるんだ!って驚きましたよ。
小島:お二人がSNSで積極的にイベントを紹介されていたのも、集客につながりましたね。お客様からの質問もけっこうありました。お二人とも普段のライフスタイルがすごく素敵で、お客様はそういうところに興味があって、同じようにライフスタイルを取り入れたいことがよくわかりました。
秋山:コロナ禍が過ぎて、今はもうフィジカルなリアルイベントが求められているのも実感できましたね。
Q. ディスプレイが特徴的ですが、どんなところがポイントでしょうか?
井上:この企画は、ポップアップストアのようにその場で商品を購入するのではなく、基本的には展示です。立っているお客様の視線に入るために、壁面を使って展示を立たせようと考えました。
秋山:入口近くの通行量が多いスペースなので、平台だけでは目立ちませんからね。
井上:この形にしたのは、雑誌じゃないですが、面を作ることで、選者が2人いるのを色で可視化できたり、複数の商品を配置しやすかったりするからです。ボックス同士を連結させて流れを作ることもできます。
Q. 人が行き交うリアルな空間をデザインする際に、どんなことに注意しましたか?
井上:空間のデザインは、雑誌のデザインとはやっぱり違います。販促施策である以上、購入がゴールで、館内の回遊性を高めることでそこにつなげる狙いがありました。リーフレットを見ながらお店を回って買ってもらうのが理想です。そのために、すべてのデザインがどうあるべきか考えましたね。
たとえばディスプレイに商品が並んでいるだけでは、ただの展示で終わってしまいます。だから、展示されている商品を購入できるショップをリーフレットで紹介して、回遊を誘導しました。POPには、お二人が商品をセレクトした理由をコメントとして載せつつ、二次元コードも掲載して、商品の詳細を伝えるWebサイトに誘導しています。
伊藤:Webでは選者お二人の写真を入れて、一緒に買い物しているような印象に仕上げました。お二人が実際に店舗で商品をセレクトしている写真はディスプレイでも見せていましたが、「あの人の夏支度」なので、Webでも人物の存在感は必要でした。
ほかにも、次々とお店が出てくるようなレイアウトと、流れるような視線誘導で、実際にショッピングしているような感覚にさせたりと、いろんな工夫をしています。イラストも、玉川高島屋S・Cの身近さが感じられるように、かっちりした感じよりラフ、でも繊細さがあるタッチをイメージしました。
小島:確かに、商品をただ並べるだけでは脈絡がないし、その後のアクションにもつながらないし、何より選者お二人のモノ選びのセンスが伝わりきらなかった気がします。でも、雑誌のように「夏支度」という大きなテーマがあって、その下にサブテーマを作って紹介する。要は編集ですよね。そうやって編集することで、使い方提案になったと思います。
井上:そうですね。距離感とかサイズ感とかディスプレイデザインの難しさを改めて感じましたが、一方で、小島さんの言う通り、普通に商品を並べるのではなく、キャスティングも含めテーマ性のある見せ方にイベント自体を編集することで、コミュニケーションが広がっていくのを現場で実感しました。
井上宏樹
ART DIRECTOR(Dynamite Brothers Syndicate)
秋山 悠
PROJECT MANAGER(Dynamite Brothers Syndicate)
伊藤友香
ASSISTANT DESIGNER(Dynamite Brothers Syndicate)
小島直子
SHOP DIRECTOR