最近増えているのが「イマーシブ展示」。アート作品の没入型展覧会のことです。
作品やアーティストの生涯を、臨場感あふれる映像や音楽などで体感できるのが特徴ですが、本当に没入できるのでしょうか?
そこで、Dynamite Brothers Syndicateのメンバーのうち、実際に展覧会へ足を運んだ人に体験談を聞きました。
葛飾北斎、歌川国芳、歌川広重、喜多川歌麿、東洲斎写楽、歌川国貞など世界的な浮世絵師の作品世界に没入できるイマーシブ体感型デジタルアートミュージアムです。


訪れたデザイナーはこう語ります。
「会場は9つのエリアに分かれていて、どの空間でも浮世絵が3DCGアニメーションやプロジェクションマッピングで再現されていました。
とても印象的だったのは、『藍』という空間の、動くアートと合わせて波が砂浜に打ち寄せられるような演出です。葛飾北斎『神奈川沖浪裏』の絵の世界に入り込んだようで素敵でした」
ほかのエリアも、40台以上のプロジェクターによって、平面的なクジラを立体的な3DCGでダイナミックに泳がせたり、花見を楽しむ女性たちをモーショングラフィックスで描いたり、複雑な立体映像空間を作り上げています。
「ただ映像が動くだけでなく、天井、床の細部にまで作品の世界観が表現されていることで没入できたように感じましたね」


アール・ヌーヴォーを代表する画家、アルフォンス・ミュシャの生涯と作品を没入型アート体験「イマーシブコンテンツ」で描く展覧会。


訪れたメンバーはこう語ります。
「展示空間は360度スクリーンで、そこに作品の映像が映し出されていて、床に自由に座って好きな場所から観ることができました」
スクリーンは高さ6mの大迫力。大画面なのに高精細で、少しも荒く感じるところはありません。
「没入できたのは冒頭の演出です。始まるまで、スクリーンと床に同じ草原の景色が映し出されていて、いざ映像が始まると、それらが同時に後ろに流れていきます。それで、スクリーンの奥の世界に一気に引き込まれましたね」
またパリの調香師が、ミュシャの故郷やアトリエなどをイメージした香りをこの展示のために開発。香りでもイマーシブを演出していました。
「今まで知らなかったんですが、ミュシャには美しい女性の絵以外に、じつは戦争の悲惨さを描いた作品もありました。そういう知らない世界がいつのまにか頭の中に入ってきたような感覚でした」
ここで番外編。イマーシブと銘打っているわけではないのに、思わぬかたちで没入してしまったケースも。
近代から現代までの美術家たちが獲得してきた「色彩」とその表現に注目し、色彩の役割を改めて考察する展覧会「カラーズ」です。


「その中でも特に没入体験を味わえた」とメンバーが話すのが、日本初公開となった、草間彌生「無限の鏡の間-求道の輝く宇宙の永遠の無限の光」。無限の鏡面の空間に入りながら、カラフルな水玉模様が万華鏡のように展開する光景を全身で浴びるように体感できます。
「360度見渡す限り鏡で、鏡と光る球体があるだけのシンプルな空間ですが、そのまましばらく過ごして現実に戻ってきたくなくなるような感覚がありましたね」
昔、ロンドンの「テート・モダン」で草間彌生のインフィニティミラールームを体験し、そこで空間作品にも興味を持ったという。
「人数制限があり、少人数しか入れないようにしているのも、没入できた理由かもしれません。通常の物体の場合は『鑑賞する』ですが、それが空間になると『入り込む』に変わって、観る視点が立体的に変わるような気がします」
最後に紹介するのは、19世紀末ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムトの黄金の世界を旅する没入型展覧会です。



「通常の展示の最後に、没入型展示の空間がありました。入ると、真っ暗な中、ふわっといい香りがして、それは没入体験のために用意された香りでした。空間は高さ7メートル。巨大なスクリーンが20枚ほど、360度にわたって設置されていました。クラシック音楽が流れる中、そのスクリーンや床に作品の映像が次々と映し出されていきます」
企画・制作したのは、オーストラリアの企画会社、Grande Experiences(グランデ・エクスペリエンセズ)。「ゴッホ・アライブ」、「モネ&フレンズ・アライブ」などの没入型展覧会も手がけ、世界200都市以上で展示会を開催する世界的オフィスです。
「今まで芸術作品を鑑賞して、その世界を想像したり感動したりしましたが、没入できるまでにはいかなかったです。でも今回は映像とか音楽とか演出の力を借りることで、その世界の中にぐいっと引き込まれました。芸術鑑賞というより、アートをテーマにしたアトラクションに近い感覚です。
そういう意味では、人の想像力には、個人差はありますが、限界があるのかもしれませんね。その限界を超えた没入型が、これからの芸術鑑賞の当たり前になってしまうとしたら、少し危険だなという気がしました。純粋な鑑賞では満足できなくなってしまうような気がして。それほど没入力がある展示だと思います」

映像や音楽をはじめ、空間デザインや香りなどの仕掛けが五感を刺激し、人の想像力を補うことで、没入できることがわかりました。
特に、音と立体感を組み合わせた効果は絶大。作品の一部が効果音とともに目の前に近づいてくる。音楽の変化にあわせて作品の背景とリアル空間が一体になる。そんな作品との距離感が限りなくゼロに近づく体験が、没入型のポイントのようです。
Dynamite Brothers Syndicate
美術誌「美術手帖」や、瀬戸内国際芸術祭公式ガイドブックのアートディレクションを長年にわたり手がけるほか、写真集・写真展のデザインも行うブランディングカンパニー。