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ハーゲンダッツ理論から考える「贈り物」の本質。

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2026.1.30

喜びとは、期待値とのギャップである

贈り物について考えるとき、私たちはつい「何を贈るか」に意識を向けてしまう。

価格、ブランド、希少性、見栄え、トレンド。

そして、喜んでもらえるだろうかという不安。

けれど実際に人の心を動かすのは、

モノそのものよりも、受け取る瞬間に生まれる感情ではないだろうか。

その感情の正体を一言で表すなら、

「喜びとは、期待値とのギャップである」。

期待に応えるのは、実は一番難しい

誕生日や記念日。

そこには最初から「特別な何かがあるはずだ」という期待が存在している。

期待に応える、もっと言えば期待を上回れば100点だ。

けれど冷静に考えると、これはかなり難易度が高い。

なぜなら、期待値が高い場面では、

  • 「それなりで当然」

  • 「良くて当たり前」

  • 「少しでも下回るとがっかりされそう」

  • 「何でもいいと言いつつ、心のどかかで期待しちゃう」

 

という評価軸が働くからだ。

つまり、どれだけ頑張っても、

喜びの振れ幅は意外と小さい。

そんな不安と葛藤の間でタイミングを逸し、

結果として贈り物を送れない人は、意外と多いのではないだろうか。

ハーゲンダッツ理論

ここで登場するのが、筆者が勝手に名づけた

「ハーゲンダッツ理論」である。

誕生日にハーゲンダッツを贈ることは、正直あまりない。

悪くはないが、「特別感」という点では少し物足りない。

ところがどうだろう。

  • 仕事で疲れているとき

  • なんとなく気分が沈んでいるとき

  • まったく何も期待していない日

 

そんなタイミングで差し出されるハーゲンダッツは、驚くほど強い

「え、今?」

「なんで?」

「ちょっと嬉しい…」

「すごい優しい」

場合によっては恋心が芽生えたって不思議ではないくらいの効果を発揮する。

 

このとき起きている心の動きは、

期待値を大きく上回る体験によるものだ。

ハーゲンダッツの価値が跳ね上がったのではない。

むしろ、いなげやのセールで買ってもいいくらいだ。

インフレで「雪見だいふく」ですら200円近くすることを考えると、割安にすら感じる。

そう、文脈が変わっただけなのである。

脳は「予測が外れた瞬間」に喜ぶ

この現象は、感覚論ではない。

脳科学の文脈でも説明がつく。

人の脳は常に、

「次に何が起こりそうか」を無意識に予測している。

そして実際の結果が出た瞬間、

脳内では「報酬予測誤差(Reward Prediction Error)」と呼ばれる反応が生まれる。

  • 予測より良かった → 強い快感

  • 予測どおり → ほぼ無反応

  • 予測より悪かった → 不快

 

つまり、喜びは

結果そのものではなく、予測との差分=報酬予測誤差の大きさで決まる。

誕生日の贈り物は、すでに予測の中にある。

一方、何気ない日のハーゲンダッツは、予測の外から飛んでくる。

だから、後者のほうが心に刺さる

ハーゲンダッツ

「ちょっとしたこと」が効く理由

ここで重要なのは、

高価である必要はないという点だ。

むしろ、

  • 高すぎない

  • 日常的である

  • 少し贅沢

 

このバランスが絶妙だからこそ、

「思ってもみなかった嬉しさ」になる。

期待されていないタイミングでは、

小さな行為が大きな報酬予測誤差を生みやすい。

それはモノではなく、

「自分を気にかけてくれている」というメッセージとして脳に届く。

喜ばれると、なぜ自分も幸せになるのか

贈り物が面白いのは、

受け取る側だけでなく、贈る側も静かに心が満たされることだ。

相手が喜んだ瞬間、

自分の中にも小さな報酬が生まれる。

それは高揚感というより、

「やってよかった」という充実感に近い。

人を喜ばせること自体が、

脳にとってひとつの報酬行動になっているからだ。

 

贈り物とは「モノ」ではなく「設計」である

この視点に立つと、贈り物の本質が見えてくる。

大切なのは、

  • 価格でも

  • サイズでも

  • ブランドでもない

 

相手の期待値をどう読むか。

どのタイミングで差し出すか。

これはもう、贈り物というより

感情と報酬予測誤差を設計する戦略だ。

ハーゲンダッツ理論が示しているのは、

「特別な日に特別なものを」ではなく、

「油断している日に、少しだけ特別を」。

 

最後に

ハーゲンダッツ理論における喜びとは、

予測が裏切られた瞬間に生まれる。

ハーゲンダッツの価値は、値段では決まらない。

出てくるタイミングと、

そこで生まれる報酬予測誤差で決まる。

ただし——

期待に応える、あるいは期待を超える贈り物を贈れる人であることも、

やはりとても重要だ。

同時に、油断しているタイミングに

さりげなく贈り物を差し出す行為にも、

それなりの勇気がいる。

 

一歩間違えば、

「え、なに?」

「なんか怖いんだけど」

「やましいことでもあるの?」

そんな誤解を招く危険性とも隣り合わせなのである。

 

だからこそ、贈り物は簡単ではない。

だが間違いなく、

人の感情を揺さぶる強力な体験設計である。

小さくてもいい。

けれど、相手の予測をほんの少し越えること。

それができたとき、

贈り物はモノを超えて、記憶になる。

 

植村 徹

PRODUCER / PLANNER

クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。

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