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可哀想な形容詞たちの話。「古い」「難しい」「甘い」って悪いことですか?

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2025.11.12

たまにはコピーライターらしく、言葉にまつわるお話を。
言葉の意味は時代とともに変化しますが、特に形容詞は、名詞や動詞に比べて世相が反映されやすいようです。
今回はまず、本来は中立的な意味なのに悪意的に使われやすい“可哀想な形容詞“について。

可哀想な形容詞❶ 「古い」

「古き良き○○」という言い回しを一度は聞いたことがあるでしょう。わざわざ「良き」と付け加えています。なぜなら「古き」自体は、長い年月が経過した客観的事実を伝える言葉で(ドーナツのオールドファッションのように)、良いも悪いも感じさせないからです。
一方でこの「古い」には、時代遅れという意味もあります。社会の変化が激しい近年はその意味で使われるケースが多く(オールドメディアのように)、誤解も生じているようです。

たとえば「古い考え方」。これだけを見ると、「柔軟性に欠けた前時代的な思考」とネガティブな印象を抱くでしょう。しかし、捉え方次第では「長年継承されている伝統を重んじた思考」とポジティブにも受け止められます。にもかかわらず、ネガティブな印象が優勢になりやすいのはなぜでしょうか。

それは、聞き手の根底に、自分が時代遅れになってしまうことへの恐れがあり、避けたい気持ちから無意識のうちに、「古い」の焦点を時代遅れに絞っているのではないでしょうか。失敗例を反面教師にして、自分は大丈夫と安堵したい気持ちもあるかもしれません。
あなたは「法隆寺は古い」という一文を見て、日本最古の木造建築に関する説明と受け止めますか? それとも、法隆寺の何らかのあり方に関する指摘と受け止めますか?

可哀想な形容詞❷ 「難しい」

一般的には、理解しにくい、解決困難という意味を持つ「難しい」。「それはちょっと難しいです」と対応を拒否したり、「あの人は難しい人だ」と陰口を叩いたりするシーンでも使われます。
昨今ではそうした使われ方が増えていると感じるのは思い過ごしでしょうか。それによって「難しい」の深淵・高尚な印象は薄れ、不便・厄介といった側面ばかりに光が当たっているようにも思えます。「難しい」が「ムズい」と略されるのも単に短縮されたのではなく、「難しい」の威厳が失われてきた証ともいえるでしょう。

その要因として挙げられるのが、タイパです。世の中には、事前に犯人を知ったうえでミステリー映画を早送りで観る人がいます。これは、時間をかけて難解な推理をする楽しさと、効率の良さを天秤にかけた結果、前者を切り捨てた行為。タイパと引き換えに難しさを手放したといえます。

今やスマホ一台で何でも簡単に調べることができる時代。何かに挑戦するハードルは昔に比べて下がりました。また、難しさはストレスを生むため、ほぼすべての物事が誰でも直感的に理解できるよう簡単に設計されています。つまり、タイパの良い日常では難しさを感じる機会が以前より減っているのです。偉業を成し遂げた先人の感じた難攻不落感やそこから解放されたカタルシスは、ゲームのHARDモードのように、もはや能動的に求めなければ手に入らない代物なのかもしれません。

可哀想な形容詞❸ 「甘い」

あるレモンサワーのパッケージにこう記載されていました。「甘くなくてうまい!」。甘いといえばプラスのイメージがありますが、商品次第ではマイナスにつながることがあるようです。また、甘さがウリのスイーツなのに「甘すぎなくておいしい」と紹介されることも。

これには、昨今の健康志向や味覚の多様化が影響しているのは疑いようがありません。とりわけ味覚は、甘酸っぱい、甘辛い、甘じょっぱいなど、甘さプラスアルファがトレンドです。食糧不足の戦後はチョコレートやキャンディーなど甘い食べ物が貴重品でしたが、飽食の現代はただ甘いだけでは満足できなくなっています。

そしてその傾向は、「甘い」の別の意味「心地よくうっとりさせるさま」にも波及しているように思われます。かつて人々は「甘いセリフ」や「甘いメロディー」に魅了されました。ところが今は、恥ずかしくなるようなクサいセリフ、既視感のある古臭い(古い+臭いで古さを強調)メロディーと評される場合があります。
文化が成熟し、精神的にも飽食になったため、ただ甘いだけでは心が満腹にならなくなったのです。もし時代錯誤の甘さだけで押し切ろうとすれば、それこそ、厳しさに欠けているという意味の「甘い」と見なされるに違いありません。

ほかにも、物質の重量がある「重い」が束縛的、思いやりがある「優しい」が頼りない、高温の「熱い」が暑苦しい、誠実な「真面目」が融通がきかないという意味で使われ、悪いニュアンスが幅をきかせているように思えます。罪のない形容詞たち、可哀想ですね。
しかし、この「可哀想」という言葉も、キャラクターが可哀想な目に遭う漫画やSNSが人気を集めていることから、すでに意図とは違う解釈がされているかもしれません。

格上げされた形容詞たち

反対に、本来は否定的な意味なのに良いニュアンスを含ませている形容詞も、近年では見受けられます。まるで悪役ひとすじの俳優が、心優しい一面を見せて役の幅が広がったような変貌ぶりです。
最もポピュラーなのは、「やばい(えぐい、えげつない)」。ほかに「あざとい」、「やらしい」、「ずるい」なども挙げられます。本来はそれぞれ、計算高い、下品、狡猾という意味ですが、「あざと可愛い」のように最近では好意的に使われています。むしろ、やり口があまりにも鮮やかなため、認めたくはないが賞賛せざるを得ない雰囲気さえ漂わせているのが「ニクい」ですね。

本当に可哀想なのは……

ひと昔前は若者の活字離れと叫ばれていましたが、スマホの普及やAIの進化の影響もあり、今は空前の言語化ブーム。
冒頭の「古き良き」と同様に、「難しいですね。いい意味で」、「甘くて、おいしい」のようにフォローを一言加えるのも言語化スキルの一例といえます。

適切な形容詞を言語化できればいいですが、もしそうでない場合、発言者の語彙力やコミュニケーション力はもちろん、もっと言えば視座の高さや今の精神状態まで露呈してしまいます。もしかしたら本当に可哀想なのは形容詞たちではなく、そうして言葉選びに誤ってみずからの評価を下げている人間のほうかもしれせん。誰でも手軽に発信しやすく炎上しやすいからこそ、慎重な言葉選びを心がけたいものです。
以上、なぜかずるいとよく言われるコピーライター 石塚勢二でした。

 

This is New Perspective

「古い=ダサい」じゃない。「難しい=面倒」じゃない。「甘い=罪」じゃない。
対象を形容する言葉は、間接的に発言者自身を形容する。

石塚 勢二

CREATIVE DIRECTOR / COPYWRITER

プロダクションにて企業の広告・プロモーションに携わった後、Dynamite Brothers Syndicateに参画。パーパス策定やコンセプト開発から、コミュニケーション戦略の立案、コンテンツの企画・制作まで行う。知性・感性が相手と共鳴する関係を重視。

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