あるクライアントから、こんな質問をされた。
「デジタル全盛の今でも、手元に残しておきたい本って何ですか?」
ちょっとドキッとした。
デザインや写真、特集の内容が面白い本……いろいろ思い浮かんだけれど、
せっかくなのでここ一年くらいで買った本を改めて並べてみることにした。
なぜ買ったのか。
何に惹かれたのか。
どんな点が、自分のデザインに影響を与えているのか。
そうやって整理していくと、この時代だからこそ紙で持っていたい理由や、
自分がデザインを考える上で大切にしている視点が少し見えてくる気がした。
今回はその中から、最近ヘビロテした五冊を厳選して、少し深掘りしてみる。
01|奇界/世界 佐藤健寿作品集
僕は昔から、ランドスケープフォトグラファーにかなり嫉妬している。
もちろん写真の美しさもある。でも、それ以上に羨ましいのは、誰も見たことのない場所を見つけ、そこまで辿り着いてしまう才能だ。
自分が普通に過ごしている間に、彼らはこんなすごい場所に立ち、普通の人には見ることのできない景色を目の当たりにしている。
そう思うと、ちょっと焦る。
だから自分も、撮影はもちろん打ち合わせやプレゼンでも、なるべく現地へ足を運ぶようにしている。
どれだけ写真や映像で見ても、その場の空気や温度までは分からない。
自分の目で見て、肌で感じたことは、あとから企画やデザインを考える時の大切な引き出しになってくれる。
この作品集には世界中に点在する不思議な風景や建造物とともに、
それらが生まれた背景にある歴史や文化が端的に纏められていて、「こんな世界がまだあったのか」と何度も驚かされる。
SNSでも写真を見られる時代だけど、ランドスケープ写真はスマホの画面では物足りない。
佐藤健寿さんの本は何冊も持っているけれど、この本はいつもより小ぶりな判型なのに、528ページ。
手に取った瞬間、その厚みにちょっと笑ってしまった。20年という時間が、そのまま本の厚みになったような一冊だ。



ちなみに、せっかくなのでサイン入りを購入した。
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02|REVUE FAIRE – TO LOOK AT THINGS #30 BIS
– TYPES OF TYPES: THE TYPOGRAPHIC SPECIMEN BY LINETO
10年くらい前、雑誌『POPEYE』の本文ページで使われていた欧文書体が気になって調べていたら、スイスのタイプファウンドリー「Lineto」に辿り着いた。書体は確か、LL Brownだったはず。
それ以来すっかり虜になり、いろんな案件でLinetoの書体を使わせてもらっている。
一見シンプルなのに、よく見るとどの書体も癖が強い。その絶妙なバランスがたまらない。
その中でも「Circular Pro」は、僕の一軍フォントの中でもエース級の存在だ。
そんなLinetoを特集した『REVUE FAIRE』を見つけた時は、記念碑のような一冊だと思い、買わずにはいられなかった。
書体そのものはもちろんだけど、Linetoが好きな理由はもうひとつある。
それは、書体の見せ方だ。
LinetoのWebサイトは、ただスペックを並べるのではなく、ビジュアルや映像を駆使しながら書体そのものの魅力を伝えている。書体を設計して終わりではなく、「どう輝かせて世の中へ届けるか」まで含めてデザインしている。その姿勢は、自分の仕事にもすごく通じるものがあって、いつも参考にしている。
……とはいえ、円安の影響でLinetoの書体はなかなか気軽には買えない。欲しいフォントを見つけるたびにカートへ入れ、値段を見てそっと閉じる。その繰り返しで、カートだけがどんどん充実していく。


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lineto▶︎
03|Wolfgang Tillmans / Things Matter, Dinge Zählen
10代の頃から、ずっとティルマンズを見続けている。
本も何冊も持っているし、書店で立ち読みしたものまで含めたら、一体何十冊見てきたんだろう。
正直、少しティルマンズもたれというか、何十冊も見てきたからこそ「もう自分は見尽くしたかな」と思うこともある。
それでも、この一冊だけは久しぶりに手が伸びた。
理由は、写真ではなくレイアウトだった。
ちょうど写真集をデザインする仕事が続いていたこともあって、自然とページの構成や見せ方に目がいった。本の上に本を重ねる大胆な構図や、写真同士を呼応させるコラージュ、ページをめくるリズム。改めて見返しても、「やっぱりうまいな」と思わされる。
ティルマンズの写真はもちろん魅力的だけど、この一冊は僕にとって写真集というより、レイアウト集として何度も開きたくなる本だ。
ちなみに、2004年にオペラシティで開催されたティルマンズ展で購入した、近藤一弥さんがアートディレクションを手がけた展覧会カタログは、今でも大切に持っていて、気づけば20年以上、本棚のスタメンだ。
04|SUPERPOSITION ISSUE 01: HARDCORE HOME
仕事でも趣味でも建築に携わることが多いので、「何か面白い建築冊子はないかな」と探していた時に出会った一冊。
誌面では、ページの天地を無視した大胆な写真のレイアウトや、図面をグラフィカルに見せる構成など、参考になるポイントがたくさんある。
でも、この冊子で一番惹かれたのは中身ではなく装丁だった。
カチッとした世界観が求められる建築冊子なのに、少し”不完全”な空気を纏っている。
中綴じの冊子にあえてカバーを巻き、平綴じのように見せるギミック。さらに中綴じでありながら小口を断裁せず、ページの端をあえて不揃いのまま残している。
かなりマニアックなポイントだけど、この”不揃い”にすごく惹かれた。
ターゲットが建築士だと考えれば、小口はきれいに揃えたくなりそうなもの。それでも、数値に忠実でズレが許されない建築という世界に対して、誌面だと遊び心として許される少しの”ズレ”を、あえて装丁で表現しているように感じた。
建築という精度の高い世界と、エディトリアルだからこそ生まれる自由さ。その絶妙なバランスに、まんまとやられた。
05|地球の歩き方 スター・ウォーズ
もはや自分とは切っても切り離せないスター・ウォーズ。
中学2年生の時に『スター・ウォーズ 特別編』を映画館で観て以来、30年経った今でも、自分にとってのキラーコンテンツだ。
そんなスター・ウォーズが『地球の歩き方』になると聞き、迷わず購入した。
この本で一番面白かったのは、第二章から始まる惑星旅行ガイド。おすすめルートや乗り物、持ち物、現地の習慣やマナーまで、本当に銀河を旅する旅行ガイドとして編集されている。
スター・ウォーズは、セリフのない登場人物や画面の隅に映るだけのモブキャラクターにまで細かな設定が作り込まれている作品だ。だからこそ、この「地球の歩き方」というフォーマットがピッタリとハマる。
細かな設定があるからこそ妄想力が掻き立てられ、
スター・ウォーズで培われた想像力は、企画やアイデアを考えるときにも意外と役立ってる気がする。
今年の夏休みは少し先になりそうなので、この夏はガイドブックを片手に、脳内旅行へ。
旅先は、遠い昔、はるか彼方の銀河系。
ここからは蛇足です。
……というより、本当はこの話が一番書きたかったのかもしれません。
今ではブランディングやWeb、映像など、アウトプットにとらわれずアートディレクションをすることが増えました。
それでも、自分の原点はやっぱりエディトリアルにあると思う。
ページをめくる順番を考え、情報を編集し、一つの世界観として届ける。
その積み重ねは、媒体が紙からWebや映像へと変わった今でも、自分の仕事の軸になっている。
SNSは最新の情報を知るには便利だけれど、何かを深く知り、じっくり考えるには少し忙しい。
だから僕は、今日も本を買います。
そして今日もまた、本棚は少しだけ偏っていく。
細野隆博
ART DIRECTOR
ソリッドで洗練された世界観の中にも遊びを加えたデザインを得意とする。紙媒体、WEB・映像ディレクションからブランディングまで、ジャンルやアウトプットに捉われず手がけている。ユニークな視点と丁寧に作り込んだデザインを軸に、クライアントの要望の先にある本質的な課題解決を目指している。
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