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【長く愛されるブランドづくり】ティファニーのテーブルマナーブックが古びない理由。

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2023.10.26

ティファ二ーのテーブルマナーブックを知っていますか? 筆者がブランディングワークで迷走した際に、立ち返る本の一つです。 本書は映画『ティファニーで朝食を』や、宝飾品・銀食器ブランドとして世界中の幅広い世代から愛されているティファニー社が、顧客に対して進呈するのを目的に編纂したマナーブックである。今から53年前の1869年に発行されたマナーブックが、なぜ色あせることなく読まれ続けているのか?そこには現代のブランディングにおいても参考になる3つの視点がありました。

ティファニーのテーブルマナーブックとは

 

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著書:W・ホービング 絵:J・ユーラ 訳:後藤 鎰夫
販売元:鹿島出版会 1969年12月10日(第1刷発行)

 

ティファニーブルーで目を惹く装丁は、シンプルなデザインで、インテリアとしてもさりげなく部屋に置いておきたくなる1冊です。FOR TEENAGERSとタイトルに入っているように、これから大人になる若者に向けた本だとわかります。挿絵のドローイングは洗練されている中に、程よく力が抜けたタッチで描かれています。余白を十分にとった適度な文章量は、読みやすく、随所にマナーを守るルールよりも、食事の場を自然体で楽しむ姿勢を、ユーモラスな視点を交えながら描いています。ここでは一例を抜粋してご紹介します。

 

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若い男性は、右側の若い女性を助けて、楽にさせてあげるのがならわしです。二人が腰かけ終わったら、豆鉄砲を食った鳩のように、キョロキョロ見まわさないで、右側の女性の方に顔を向けて、話しはじめましょう。
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上の絵のように、ゴルフのクラブのような握り方をしてはいけません。これではスープコース落第です。
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もし、アスパラガスが長くてほそいときは、右手でフォークを使って、はしを切って、フォークに刺して食べます。そうすれば、上の絵のようなあざらしの曲芸を演じなくてすみます。

約100ページで構成されているこの本は、前半は基本的な洋食コースのテーブルマナーで構成されており、最低限のテーブルマナーがわかります。後半のベからず集では、食事の場での振る舞いや、心構えについて書かれていて、誰にとっても読みやすく構成されています。では、当時ティファニーの会長だったW・ホービングが書いたこの本が、53年経った今でも古びないのはなぜか。

 

ティファニーのテーブルマナーブックが古びない3つの理由。

カルチャーにはトレンドがあり、数年経てば時代遅れになってしまう。
また、デザインや写真も同様にその時代のトレンドが反映されており、古い表現になってしまいます。もちろん、レトロという言葉があるように、古いデザインを好むトレンドもあるが、この本はそれとも少し違う。
ではなぜ、この本からは古さを感じないのか。

そこには、現代のブランディングにも通じる3つの視点がありました。

1、テーブルマナーという行為そのものが、トレンドに左右されない普遍的な価値である。
テーブルマナーの行為は、一緒にテーブルを囲む人たちを不快いにさせたくない気持ちの表れです。そして料理を用意してくれた人への敬意です。つまりテーブルマナーの行為そのものが、時代や世代を超えた普遍の価値であり、トレンドや時代を感じさせない大きな要因になっています。
→モノは古くなるが、行為は古くならない。

2、マナーは守るためにあるのではなく、食事を楽しむためにある。誰もが共感できる本質的なメッセージ。
ティファニーのテーブルマナーブックを1冊読めば、基本的なテーブルマナーがわかります。ですが、この本の著者であるW・ホービングは、マナーは守るためにあるのではなく、食事を楽しむためにあると伝えています。この本は随所にウィットな表現が散りばめられており、食事の場を楽しむ姿勢を表現しています。
そして、全てのマナー解説を読み終えた最終ぺージに、象徴的な一文があります。この一文に、ティファニーがこの本を通して伝えたかったブランドメッセージが込められているように感じます。
→ブランドの哲学は古くならない。

「これで作法の心得がわかりましたら、作法を破ることができます。しかし、作法を破るには、十分社交知識の心得がいることを忘れないでください。」

3、時代を感じさせない表現。
ビジュアルは全編通して、ドローイングで描かれています。もしも、この本のビジュアル表現が写真中心で構成されていたらどうだっただろう。おそらく写真表現にしていたら、料理やテーブルウェアなどのテーブルセッティングが必要になっていたと思います。スタイリングにはファッション同様にトレンドがあり、どうしても時代を感じさせてしまいます。要素を極力削ぎ落としたドローイング表現は、エレガントでありながらも、ティファニーらしく自由奔放な気持ちを表現しています。また、ティファニーの銀食器を宣伝したいのであれば、写真で表現できたはずですが、ドローイング表現にすることで、本質がモノでは無く行為にあることをメッセージしています。
→トレンドに左右されない表現は古くならない。

 

ライフタイムバリュー(LTV)

「FOR TEENAGERS」というタイトルが示す通り、ティファニーのテーブルマナーブックは短期的なファン獲得や、売り上げ増加を追求するものではなく、むしろ長期的な視点でのファン獲得とラグジュアリー文化の継承を視野に入れていることが分かります。このアプローチは、最近注目を集めている顧客の生涯価値(LTV)の重要性を、53年前にすでに体現していたと言えます。

 

長く愛されるブランドには共感できる哲学がある

そもそもジュエリーの価値は古びない。もちろんデザインの変遷はあるものの、時代とともにその価値は世代を超えて受け継がれていくものです。この本からは、由緒正しいラグジュアリーな文化を自然体で楽しむためには、最低限の心得が必要ですよ。とメッセージされているように感じます。それは、ジュエリーを身につけるという行為であっても同様なのではないでしょうか。ラグジュアリー商材はステータスシンボルとして身に付けることも多く、富を得た一握りの人たちのモノかもしれません。ですが、ティファニーはモノではなく行為そのものに本質的な価値を見い出し、エレガントであることの意味を伝えてくれているように思います。長く愛されるブランドには、時代や世代を超えて共感できる哲学があります。

植村 徹

PRODUCER / PLANNER

クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。

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