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セレンディピティは誘発できるか?ボケーッとひらめきを待つ「ノープット」のすすめ【後編】

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2023.2.24

セレンディピティという言葉が今、ビジネスや科学の分野で注目を集めています。前編では、セレンディピティ誘発のメソッドとして「ノープット」を提唱。 今回は各方面でセレンディピティがどのように捉えられているか調査しました。

しばらく寝かせ、あらためる必要がある

まずは、1983年に刊行された文学博士・外山滋比古氏の「思考の整理学」。
2012年~2021年の10年間で東大・京大で一番読まれた本といわれる学術エッセイです。この中でセレンディピティの重要性を次のように説いています。

中心的関心よりも、むしろ、周辺的関心の方が活発に働くのではないかと考えさせられるのが、セレンディピティ現象である。視野の中央部にあることは、もっともよく見えるはずである。ところが皮肉にも、見えているはずなのに、見えていないことが少なくない。

考えごとをしていても、テーマができても、いちずに考えつめるのは賢明ではない。しばらく寝かせ、あらためる必要がある、とのべた。これも、対象を正視しつづけることが思考の自由な働きをさまたげることを心得た人たちの思い付いた知恵であったに違いない。

視野の中心にありながら、見えないことがあるのに、それほどよく見えるとはかぎらない周辺部のものの方がかえって目をひく。そこで、中心部にあるテーマの解決が得られないのに、周辺部に横たわっている、予期しなかった問題が向こうから飛び込んでくる。

寝かせるのは、中心部においてはまずいことを、しばらくほとぼりをさまさせるために、周辺部へ移してやる意味をもっている。そうすることによって、目的の課題を、セレンディピティをおこしやすいコンテクストで包むようになる。人間は意志の力だけですべてをなしとげるのは難しい。無意識の作用に負う部分がときにはきわめて重要である。セレンディピティは、われわれにそれを教えてくれる。

一歩踏み出し、アクションをすると起こしやすくなる

続いては、「スプリングバレーブルワリー」「淡麗」「氷結」などの大ヒットを次々に生み出し、伝説のヒットメーカーと呼ばれる元キリンビールの和田徹氏。

「インプットの総量」「構想・ビジョンへの情熱」「ひらめきを逃さない力」をつなぎ、発想のきっかけとなるのが、セレンディピティです。

これは「ふとした偶然」をきっかけに、人生が変わる幸運を得ることです。ちょっとした会話、ハプニングなどで、その場で突然化学反応が起きる。そして、役に立つアイディアを見つけ、人生が好転する機会が得られる「気づき」のことです。これは誰にでも起こります。さらに、ただ待つだけでなく自分から迎えに行けます。いつもいる場所から一歩踏み出し、アクションをすると起こしやすくなります。

たとえば書店。書籍を手に取ってパラパラめくったり、どんな本が人気なのかな、と眺めたりするだけで、ピンとくることもあります。ほかには、オフィスでの立ち話や飲み会での雑談。なかには、雑談を奨励する取り組みをしている企業もあります。あるいは、セレンディピティが起こりやすいような環境やしくみを工夫してつくっているコミュニティやサービス、場所などを活用するのもオススメです。
(中略)日常の中に、ぜひ、セレンディピティを起こす行動習慣を取り入れてみてください。即効性はないかもしれません。でも、必ずあなたの中に蓄積されていきます。

和田氏は著書の中で、セレンディピティを起こすための具体策として、ほかにも出会いやコミュニティづくりのためのイベントを頻繁に実施しているシェアオフィスや、異なる価値観が混ざり合い、予期せぬ化学反応が起きやすい異世代間交流・協働・共創プラットフォームの活用もオススメしています。

自分の日常にちょっとしたイノベーションを起こす

ここまで文学者、商品開発者のセレンディピティの捉え方を調べましたが、最後にクリエイターがどのようにセレンディピティと向き合っているかを紹介しましょう。

市場の需要という小さなタネは、日常生活のあらゆる場面にひそんでいます。私は、そのタネを見つけるために、日々意識 していることがあります。それは、日常の中にちょっとしたイノベーションを取り入れることです。

まずは、自分の行動を少しだけ変えてみてください。行きつけのラーメン屋さんで、食べたことのない塩ラーメンを注文してみる、帰宅ルートに、いつもとは違う道を選んでみる、映画館で、普段は選ばない最前列に座ってみる、些細なことでかまいません。

すると、「塩ラーメンは、出汁や麺の味が重要なんだ」とか「入り組んだ道の先にあったカフェが、隠れ家風で素敵だった」とか、「映画館の前列シートも、リクライニングなら人気が出るかも」といった、新しい発見や気づきがあると思います。その発見や気づきこそが、需要のタネを発見するトリガーになったりするのです。
(中略)人は、自分の嗜好や生活動線を変更するのが難しい生き物です。こうしたハードルをどう越えていくか、越えさせるかを考えることが、新しい商品やサービスの訴求方法を考えるトレーニングにもなるでしょう。

ブランド開発やサービス開発のときだけイノベーションを考えるよりも、常にいろいろな体験をしながら、それを仕事に生かしていくほうがずっと簡単です。些細なことで構わないので、自分の日常にイノベーションを起こしてみましょう。

セレンディピティのこれから

「セレンディピティは誘発できるか?(前編)」では「ノープット」を提唱しましたが、今回の書籍でも同じようにセレンディピティを起こそうと工夫していることがわかりました。

偶然の出会いを呼び込むという点で、今後はメタバースも大きな効果を発揮するでしょう。コロナ禍で外出を控えていた人も、今後は気軽にメタバースの世界で外出し、偶然の出会いを体験できます。

あるいは、これまでスピードや最適化を最優先して進化してきたAIが、今後はセレンディピティを起こしたい人のために、効率とセレンディピティを天秤にかけ、まったく別の進化を遂げるかもしれません。

寄り道がセレンディピティへの近道になる可能性があるのは、古代アルキメデスの時代から変わりませんが、技術が進むことでその寄り道は多様化するに違いありません。さまざまな寄り道の中でどこを選ぶか、そのセンスや勘も今後は重要になってくるのではないでしょうか。

 

This is New Perspective
セレンディピティは自分の心がけやアクション次第で誘発できる。今後はデジタルも含め、寄り道の選択肢は広がる。

石塚 勢二

COPYWRITER

広告制作会社で多くの企業の広告、プロモーションに携わった後、入社。コピーライティングに限らず大局的な視点に立ち、ブランドのコンセプト開発からコミュニケーション戦略の立案、動画・音声コンテンツの企画・シナリオ設計まで行う。

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