ブランディングとは~ingがつくように、継続してこそ価値がある取り組みです。
にもかかわらず、ブランドの立ち上げに全力投球する反面、継続的視点がおろそかになってしまうことがあります。
そこで今回は、誰もが一度は引き込まれた経験を持つ「連続ドラマ」の視点から、ブランディングを考えてみます。
連続ドラマのヒットメーカー宮藤官九郎は言う。
連続ドラマは俳優の成長に合わせて脚本を書き換えられるのが面白い。
また、視聴者の声も今はどうしても耳に入るので、「何くそ!黙らせてやろう!」という気分にもなる。
つまり、連続ドラマは脚本の骨子は大事にしながらも、俳優や視聴者と一緒に成長していくものです。
ブランディングは、単なるロゴやデザインの作成ではなく、一貫した物語を紡ぎ続けます。
と、わかっていても、現実はローンチに全力投球になってしまいます。
そこで、「継続的なブランディング」実現のために、最初から連続ドラマのように中期的なブランディング脚本を書けばいいと筆者は考えます。
そんな風に考えれば、商品も、メッセージもデザインも、ブランドコンセプトだって最初から完璧じゃなくてもいいはずです。
連ドラは、一般的に1週間に1回、3ヶ月〜半年で構成されます。その間、視聴者を惹きつけるために、様々なパターンや仕掛けを用います。視聴者は毎週のドラマが楽しみになり、最終回を迎える頃には「〇〇ロス」になるほどです。
そこで、視聴者を夢中にさせる連ドラ的仕掛けを「継続的なブランディング」に応用してみます。
連続ドラマの魅力のひとつは、登場人物がエピソードを通じて成長し、新たな展開が常に用意されていることです。
連続ドラマでは、キャラクターの成長が視聴者の共感を呼びます。
ブランディングにおいても、ブランドの挑戦や失敗をオープンにし、それを乗り越えて成長したエピソードを共有する。
消費者にはその過程を楽しんでもらいます。
著書「プロセスエコノミー」の中で、尾原和啓氏は言う。
インターネットの普及により、モノやサービスはすぐに世界中でコピーされてしまう。このような時代において完成品で差をつけるのは難しい。だったらプロセスを売ればいい。なぜならプロセスはコピーできないから。こだわりを追求する姿、さまざまな障壁を乗り越えながらモノを生み出すドラマはその瞬間にしか立ち会えません。
幻冬舎「プロセスエコノミー」
そもそも、ブランドを立ち上げる際に最初から完璧な表現は難しいものです。
結局はマーケットに出てみないとわからないのですから。であれば最初から完璧を求めず、消費者の反響や反応を取り入れ、進化させていく脚本を書けばいいのです。
完璧を求め過ぎるから失敗という結果が生まれますが、最初からプロセスと考えればいいのです。
思い返してください、連続ドラマの主人公は何かしら最初は欠陥がある人物が多いと思いませんか?
連続ドラマでは、エピソードが終わる際に、次回が気になるようにクリフハンガーの手法を用います。主人公の恋が実るのか、あるいはすれ違い続けるのか!?ギリギリのところで
「to be continued」が差し込まれる。
常套手段にも関わらず、筆者も幾度となくヤキモキ、モヤモヤさせられ、クリフハンガーの餌食になってきました。
ブランディングでも、継続的に新商品を出すことを認識させて、消費者に「次は何が出てくるのか」と期待を持たせておいて、
伝家の宝刀「to be continued」で煽る。そうすれば常に興味を引き続けることができます。
iPhoneがそうですね。いてもたってもいられず、発売日のApple Storeの前には長蛇の列ができるほどです。ハイブランドのコラボレーション企画でもみられる手法です。
イベント企画や広告などでこの手の手法は用いられることはありますが、ブランディング戦略自体に組み込まれている事例はまだまだ少ないのではないでしょうか。
tiktokで流行った、矢印に to be continuedの元ネタは「ジョジョの奇妙な冒険」
連続ドラマでは、複数のキャラクターの視点が交差し、複雑で多層的な物語が展開されます。
前半〜中盤に掛けて様々な伏線を張っておいて、後半にかけてその伏線を回収していくパターンですね。
「そういうことだったのか!!」と、自分だけが気づいたかのような錯覚に陥ります。
最近ではSNSでその先の展開を予測し、盛り上がったりもします。
ブランディングでも、異なるターゲット層や製品カテゴリーに合わせて多層的なストーリーを展開することで、多様な顧客層にリーチできるかもしれません。一つの商品やサービスをあらゆる視点で語ることで、違った価値を見いだすこともできます。デザイナーはそのブランドのデザインを語る、経営者はそのブランドの背景を、営業マンは販路開拓の苦労を、商品開発者はサステナブルへの想いを語る。それぞれの立場で想いを語ることで、消費者には点ではなく、線としてブランドの魅力が伝わり、より強い共感を得ることができるでしょう。
連続ドラマが社会的テーマを取り入れることで視聴者の共感を呼ぶように、ブランディングでも社会的なテーマを取り入れることは有効です。
少し前に放送された宮藤官九郎脚本の連続ドラマ「不適切にもほどがある」は今の時代では到底受け入れられない昭和の常識をユーモアを交えてドラマにしていました。また、聴覚障害者が主人公の恋物語も王道です。
古くは「愛していると言ってくれ」や「星の金貨」、最近では「silent」がそうです。
社会的課題をテーマにしたブランドはここ数年でかなり増えましたが、頭でっかちに訴求するよりも、切り口として、ユーモアや恋を取り入れることで、より一層消費者に伝えたいメッセージが届くかもしれません。
たとえば、日本社会の大問題である少子高齢化。人口統計図を片手に語る政治家の政策は大いに大事ですが、ユーモアや恋を用いた商品やサービスのブランド化がもう少しあってもいいように思います。
宮藤官九郎脚本の連続ドラマ「不適切にもほどがある!」
現代社会における多様な価値観、過剰なコンプライアンス意識やハラスメントへの配慮によるコミュニケーションの難しさを、昭和と令和の対比を交えてユーモラスに描いている。
連続ドラマでは、シーズンをまたぐ謎が視聴者の興味を引き続けます。ブランディングにおいても、ビジョンや次なる動きについて、あえて全貌を見せないことで消費者の好奇心を刺激し、長期的な関心を引くことができるかもしれません。
ブランディングはブランドの想いや価値をいかに消費者にわかりやすく伝えるかが重要と考えられています。ですが、うっかりすると、メッセージが一方的になり、押し付けにもなりかねません。
不定期にオープンするケーキ屋や、餃子屋さんが人気なのは、逆に情報が少なく、どこか謎めいているが故に話題になるなんてこともあります。
ブランディングにミステリーを持ち込むなんて、なかなか新しい試みになるのではないでしょうか。
・めちゃくちゃ美味しいイチゴだけど生産地は秘密です。
・とても着心地のいいセーターですが、なんの動物の毛かは言いません。
・肌がスベスベになる基礎化粧品、原料は3年使った方にお知らせします。
連続ドラマで視聴者が感動的なシーンでカタルシスを感じるように、ブランディングでも消費者に感情的な満足感を与える体験を提供することが重要です。ブランドを通じて、消費者が「これが私の欲しかった体験だ!」と感じる瞬間を創出し、その感動がブランドとの結びつきを強化します。
倍返しでお馴染みの『半沢直樹』は、感情的なカタルシスを強く感じることができるドラマでした。視聴者は、半沢が職場での不正や権力者の横暴に立ち向かう姿に共感し、彼が逆境を乗り越える度に大きなカタルシスを感じます。
特に、敵対する相手に対して最後に「倍返しだ!」と勝利を収める瞬間に、筆者も圧倒的な爽快感と感情の解放を得たものです。
ブランディングを設計する際にも、カタルシスポイントを設定してみてもいいかもしれません。
ドラえもんから困った時に最適な道具を提供されるのび太は、いつも最高のカタルシスを感じていることでしょう。
映画で有名なto be continuedといえばバック・トゥーザ・フューチャーですよね。
これらの仕掛けを効果的に活用することで、顧客を飽きさせず、常にブランドに興味を持ってもらうことができます。
まるで続きが気になる連続ドラマのように、顧客をブランドの世界観に引き込み、長期的な関係を築いていくことができるのです。
連続ドラマの伝家の宝刀「to be continued」に、筆者も何度歯軋りしたことか。
最近ではTVerやNETFLIXのように一気観することも多くなったとは思いますが、
1話・2話・3話とやめられない止まらない時点で、それはもう連ドラ的手法に踊らされています。
立ち上げ時、半年、1年、2年と、ブランディングの山をどこに持ってくるかによって、事業計画も変われば戦略も変わります。
予算計画も当然変わるし、クリエイティブの精度も変わります。売り上げが伸びない、
認知が上がらないなど外的要因を受けて手を加えるのではなく、中期的にブランディング脚本を描くことで、ブランディングがより戦略的に描けるようになるのではないでしょうか。
植村 徹
PRODUCER/PLANNER
クリエイティブエージェンシーでCI/VI、ブランディング、TVCM、Web施策などを経験。デザインシンキングや編集思考を用いたワークショップやファシリテーションを得意とし、百貨店の売り場開発、ライフスタイル商材のブランドコンセプト開発などを行っている。