
最近、ある街を訪れたときのこと。初めて来たのに「前にも来たような……」という既視感がありました。
それはなぜか。原因はすぐにわかりました。駅直結の商業施設に、ビームスやユナイテッドアローズ、ユニクロのほか、無印良品や青山フラワーマーケット、さらにスターバックスやRF1など、おなじみの店舗が並んでいたため、ほかの街と混同したのです。
「世界で検索されている日本の地名ランキング」という2025年の調査によれば、最も検索されている日本の都市は、東京です。海外から魅力的に捉えられているようですが、では、その大都市を構成するそれぞれの街はどうでしょう?
街を実際に歩いて思うのは、銀座=大人の街、渋谷=若者の街という従来のイメージは、もはや希薄になっていること。「丸の内OL」、「シロガネーゼ」、「ニコタマダム」といった言葉はとっくに死語になっていること。新橋のガード下といえば、かつては仕事帰りの中年男性たちが集まる場とされていましたが、今は20代の姿も見られ、様子は変貌しています。そうかといって、代わりに何か新しいイメージが定着しているわけでもないようですが。
昨今、日本の地方都市が無個性化していると論じられていますが、その波が東京にも押し寄せていると感じるのは思い過ごしでしょうか。というわけで今回は、街に個性を生む要素をブランディング視点で考えます。
まず挙げられるのは、グルメ、ファッション、カルチャーの3つ。1つでも備えていれば強い個性が生まれるはずです。
要素1. グルメ
その街を代表する名物料理があると、高確率で「◯◯の街」と呼ばれます。たとえば、カレーの街、神保町。韓国料理の街、新大久保。魚介の街、築地。もんじゃの街、月島。ちゃんこ鍋の街、両国。コーヒーの街、清澄白河。餃子の街、蒲田。日本料理の街、神楽坂というように。一度その印象が定着すると、駅を出たらその香りがしてくる錯覚さえ覚えるでしょう。
要素2. ファッション
街の個性は、そこを歩く人々の佇まいや、人々が目指す店舗も大きく影響します。銀座や表参道はハイブランド、下北沢や上野は古着、日暮里は生地と、同じファッションでもさまざま。御徒町のジュエリーという例も。グルメと同じく「◯◯の街」と呼ばれる重要な要素です。
要素3. カルチャー
下北沢の小劇場、高円寺のライブハウス、秋葉原のアニメやゲームショップ、神田の古書街、お茶の水の楽器店街、六本木の美術館。これらを見れば、街の文化や風土も、ほかの街と差別化し個性を放つファクターになるのがわかるはずです。来年春に全体開業予定の高輪ゲートウェイシティーにも総合文化施設が開館すると発表されました。「こち亀」の亀有、「IWGP」の池袋、「男はつらいよ」の柴又のように、漫画や映画の聖地として個性が生まれるパターンもあります。
以上3つの要素があれば、個性的な街になるのは当然といえるでしょう。ここからは、その3つがない街や、さらに個性を加えたい街のケースについて考えます。
個性化のアクセント:レトロ
浅草、日本橋、谷中、巣鴨の古い街並みは、それ自体が街の財産。蔵前のおかず横丁、浅草橋問屋街、大井町東小路飲食店街のようにノスタルジックな雰囲気を体験できれば、それだけで個性になります。古さという1点を最大化することで独自性が生まれ、それがきっかけで、知られざるレトロなグルメ(純喫茶)、ファッション(古着)、カルチャー(レコード)にスポットが当たる可能性もあります。
個性化のアクセント:パーク
定期的に発表される「住みたい街ランキング」には、公園の有無も影響しているようです。光が丘公園、葛西臨海公園、駒沢オリンピック公園、石神井公園、昭和記念公園などが、街の価値向上に寄与しているのは疑いようがありません。これまで街に閉じていた公共施設、オフィス、商業施設が緑豊かなオープンスペースを備え、街に開くようになったケースもあります。そこからも公園の重要性が垣間見えます。
そして、私が特に注目するアクセントが「ディープ」です。
個性化のアクセント:ディープ
新宿の歌舞伎町やゴールデン街、赤羽の一番街、三軒茶屋の三角地帯、吉祥寺のハモニカ横丁、浅草の地下街、北千住の飲み屋横丁、錦糸町ダービー通り、品川駅港南商店街、野方文化マーケット、さらに、かっぱ橋道具街。これらのディープなエリアには、単に美しく再開発されただけの街にはない異質な個性が存在します。新橋のニュー新橋ビル、五反田の五反田ヒルズやTOC、中野ブロードウェイ、秋葉原ラジオセンターのように施設・建物がその役割を果たす場合もあります。
「怖いもの見たさ」という言葉があるように、アンダーグラウンドの刺激的な雰囲気は、いつの時代も人を本能的に引き寄せるのかもしれません。それを物語る2つの話題作があります。今年ヒットした香港映画「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」と、今年TVアニメ&実写映画された「九龍ジェネリックロマンス」です。

その2作品の舞台が、九龍城砦。1960年前後、香港にたどり着いた不法移民が住み着き、わずか3ヘクタールの土地に500棟もの違法建築が隙間なく林立していたスラム街です。中国がこの場所の主権を主張していたため、1970年代まで警察権が及ばない治外法権地帯で、犯罪組織がここを根城にしていたことから「東洋の魔窟」と恐れられていました。1993年〜1994年に取り壊され、跡地は公園として整備されています。
先述の2作品のほかに、2017年に発表されたMONDO GROSSOの楽曲 「ラビリンス」は九龍で撮影され、九龍城砦を彷彿とさせる建物が登場しました。そんな圧倒的に異世界の九龍城砦が、なぜ今、日本人の心をつかむのでしょうか?
推察するに、ある種の郷愁やあこがれ、共感にも似た感情を意識下で抱いているのではないでしょうか。
たとえば戦後〜高度経済成長期のまだ日本が貧しかった頃を知る人には、人々が肩を寄せ合って生きるさまがどこか懐かしく感じられ、それ以降の時代を生きる人には、均質化した今の日本・東京の街にはない混沌が新鮮に感じられ、その奥に社会を変革するたくましいパワーを見出しているのかもしれません。あるいは、閉塞感を抱えながら生きる日本人の中には、九龍城砦の住人に通ずるものを感じている人がいてもおかしくはありません。
デジタルツインというテクノロジーがあります。現実世界の環境から収集したデータを使い、仮想空間上に双子(ツイン)のようにまったく同じ環境を再現し、都市のインフラ設計や建設、防災などの分析やシミュレーションに活用する技術です。大成建設が開発した「シン・デジタルツイン」では、なんと建物内や地下も精緻に再現し、人流や交通をシミュレーションできます。
人を惹きつけるディープなスポット、エリアをもし東京の街に取り入れたらどうなるか、人流や交通、治安などにどんな変化が起きるか、デジタルツインで検証してみるのも面白いかもしれません。(昔、シムシティというゲームソフトがありましたが同じ要領で)
軍艦島と呼ばれる長崎県の端島など、訪日外国人がマニアックなスポットを求めるオーバーツーリズム時代。そうした場所を選ぶ外国人の行動変容が生まれ、問題化している一挙集中が緩和することも考えられます。
さらに、ディープを個性にするというこの手法は、街に限らず商品・サービスにも応用できるかもしれません。
少し影のある人に惹かれるのと同じように、得体の知れない不穏なものは人を魅了します。不良の学生に優しい一面があるとギャップから好意を抱いてしまうのと同じように、一見不穏でありながら確かな品質をクリアしていれば、マイナスからの反動で大きな信頼につながります。他を寄せつけない雰囲気によって、コアなファンやコミュニティが生まれる場合もあるでしょう。もちろん、ごく一部の商品・サービスに限られますが、ディープな印象はさまざまな可能性を秘めているといえます。
以上、Dynamite Brothers Syndicateというディープな名前の会社の、東京生まれ東京育ちのコピーライター 石塚勢二でした。
This is New Perspective
街はいくつかの構成要素で個性が生まれる。ディープな印象づくりは商品・サービスの差別化に応用できるかもしれない。
参考:「パークナイズ 公園化する都市」(Open A/公共R不動産)、NHK「バタフライエフェクト 香港百年のカオス」、美術手帖(2025.7.15)
石塚 勢二
COPYWRITER
プロダクションにて企業の広告・プロモーションに携わった後、Dynamite Brothers Syndicateに参画。大局的な視点に立ち、企業のパーパス策定やブランドのコンセプト開発から、コミュニケーション戦略の立案、コンテンツの企画まで行う。